終戦のローレライ(2) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2005年1月14日発売)
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ローレライの回収に成功し、《彼女》の正体であるパウラとフリッツの関係、そして2人の過去が明かされます。そこは想像を絶する世界で、単一民族の歴史しか知らない日本人にとっては思いもよらないものでした。けれどそれを知ることによって、フリッツが何度となく口にする「恐怖が支配する世界で生きてゆくためには、自分自身が恐怖になるしかないんだ」との言葉の重みがひしひしと伝わってくることになりました。彼らが生き延びるための道はそれしかなかったのです。
わたしには、単にフィクションの世界だと割り切れないのです。本当にこんなことがまかり通っていたとしてもおかしくない、戦争とは人間を狂気の沙汰に追い込んでいくものなんだと思うのです。
そんな中、征人は大人たちの無力さ、脆さに戸惑い腹を立てます。大人たちは、軍人だから、戦争だからという理屈にしたがっているだけで、自分の行動に何ひとつ確信を持てずにいるのではないか。征人は考え、怖れずまっすぐに大人たちに伝え、自分の守るべきもののために行動を起こします。パウラという守るべきもの、自分の命と引き換えにしてもいいと思えるものが見つかった征人は、矛盾するかもしれませんが決して命を無駄にせずこれから必死で生きていくと思います。
フリッツにあっても、パウラを人間として扱ってくれるこの艦の乗組員と言葉を交わし、戦いを乗り越えるうちに、人間的な感情が戻りはじめてくるようです。だけど、彼らの行く末は困難を極めこのまま平穏無事にラストを迎えることは出来ないでしょう。だから、余計にフリッツの彼らに対する気持ちの変化が嬉しいのに何だか切なくなってしまうのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:著者は行
感想投稿日 : 2017年12月21日
読了日 : 2017年12月21日
本棚登録日 : 2017年12月21日

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