若い仏像修復師・門真のもとでアルバイトを始めた仏像好きの青年・雪嶋の成長物語。
仏像修復というかなりニッチな設定も面白く、なかなかいい話なのですが、どうも不自然な所がたくさん目についてしまいます。例えば、仏像の種類は印(手の形)や持ち物で見分けられる事は、仏像にさほど詳しくない私でも知っています。でも仏像好きという設定の雪嶋も、さらには修復師である門真もそれを新知識のように語るのです。さらには脇役の造形も甘く、会話の流れにも不自然さが目立つように思います。
仏像を扱いながらも宗教からは距離を置き、ただ、人々に大切に扱われてきたものとしてややドライに扱っていることなどはなかなか良いのですが。。。

2024年4月20日

読書状況 読み終わった [2024年4月20日]
カテゴリ 一般

乳製品を扱う株式会社「明和」に就職した朋太子由寿(ほうだいし・ゆず)の新入社員生活と、彼女の推しであるネット投稿小説(乳酸菌が人化して活躍するしてブルガリアの歴史ファンタジー)の2本立てで話が進みます。
このネット小説部分が読みづらい。名前がややこしい。菌と人間の関係が掴みづらい。オタク的要素・用語が理解しづらい。その割に本筋との関連は低い。無くて良いんじゃねぇ。
では、本筋はというと、こちらも取っ散らかった感じ。サラリーマンの奮闘物語(過去の英雄的営業マン)あり、オタク論議あり、田舎あるある、その中におそらくそれが本筋であろう主人公の成長物語が埋もれてしまい。
軽い感じで読み飛ばせるのなら良いのだけど、いちいち引っかかってしまいます。最初の50ページほどで投げ出したくなったけど、何とか我慢。その後も何度も「やめようか」と思ったけれど、中盤からネット投稿小説部分が減ったせいもあって、何とか読了しました。
タイトルを見ても想像つくように、扉の裏に「本作は、2023年に『明治ブルガリアヨーグルト』が50周年を迎える株式会社 明治の取材協力のもと執筆した小説です。」とあります。ですから、さほどドギツくはないのですが明治の企業理念が得々と語られたり、企業努力を賞賛したり。どうも、こうした企業からの依頼で書かれた小説は私は苦手な様で、不動産会社からの依頼で書いた『スイート・ホーム』を読んで以来、原田マハさんに手が出なくなったりしています。

2024年4月16日

読書状況 読み終わった [2024年4月16日]
カテゴリ 一般

副題;刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります
読むのは小説ばかりの私ですが、タイトルに惹かれて思わす借りてしまいました。
男子受刑者たちに調理を教えることになった女性栄養士さんの奮闘。
・作っているのは受刑者だが、レシピ通りに作り、味見は許されない
・とにかく「平等」に配膳できることが第一。
・意外に冷凍食材/食品を多用している。
・きちんと管理された食事のため、受刑者は標準体重が多い
などなど。
ちょっと期待した「爆笑ネタ」は余り無かったけど「へ~」は結構ありました。
ちなみにレシピも載ってます。

2024年4月13日

読書状況 読み終わった [2024年4月13日]

両親を事故で亡くし、田舎町で祖父と二人で暮らす少年が主人公。章ごとに一つの事件を扱い、その中で祖父が少年に「いかに生きるか」を教えて行く連作短編風の仕立てです。
ネットで調べると非常に高い評価を受けている本ですが、私はちょっと。。。
私の感覚は「小中学生向けの教訓的な民話」です。物語としては素朴、悪く言えば稚拙。良い話なのだけど、わずかに押し付けがましさを感じる。
あとがきには、最初は自費出版で、口コミでベストセラーになったと書かれています。著者の来歴を調べてみると宣教師だったこともあるようで、なるほどそんな感じがます。
説教臭いと感じるか、良いと思うか、読み手の精神状態によって評価が分かれるのだと思います。

2024年4月4日

読書状況 読み終わった [2024年4月4日]
カテゴリ 一般

中島さんらしい雰囲気の作品です。スカッと抜けてるわけでは無く、どちらかと言えばドヨンとしているのだけど重くはない。多分、独特のユーモアのせいでしょうね。なんだか可笑しいのだけど、なぜ可笑しいのか良く分からない。
30年ぶりにアメリカから帰国した大学教員の沙希が主人公で、舞台は武蔵野の一角・うらはぐさ地区とそこにある昔からの商店街。
社会的な事件・事象を主題にする物語とすれば絶妙に焦点を外しています。描いているのは、これから動き出す商店街の再生活動の前段階だし、主人公もそこに住むちょっと不思議な秋葉原さんの方がふさわしい気もします。でも著者が描こうとしたのはちょっとノスタルジックな商店街や地区に残る自然、そしてそこに根差したようなごく普通の食べ物や、そこに住む人々の群像劇です。
気になるのは無茶苦茶な敬語を使う女子大生。変な敬語で嘘っぽ過ぎます。余りに嘘っぽ過ぎて、現実に中島さんがそんな女の子に会った事があるのかと考えてしまいます。
肩ひじ張って主義主張を述べる訳でもなく、ごく自然に好きだからそういう暮らしを続ける人々。そうしたものが大切にされるような気持ちの良いエンディングでした。

2024年4月3日

読書状況 読み終わった [2024年4月3日]
カテゴリ 一般

引退して10年になる伝説の映画女優・和楽京子(80歳)と、彼女に依頼されて荷物整理のアルバイトをする大学院生の岡田一心の物語。平易で軽い文体で、二人の出会いから別れまでを淡々とと描いて行きます。しかし、その中で二人がともに過去に身近な人の死によって得た、強い喪失感が浮き彫りになってきます。
次の予定が迫って来て、残り僅かだったので無理すれば読了できそうだったけど、なんか勿体なく。一旦本を置き、用事を済ませてから落ち着いて読了しました。柔らかいのだけど、「大切に読みたい」と思わせる作品でした。

2024年3月30日

読書状況 読み終わった [2024年3月30日]
カテゴリ 一般

『ミシンと金魚』の永井みみさんの新作。実は手にすべきか悩んでいたのです。
56歳のデビュー作である『ミシンと金魚』は素晴らしかった。しかし、その少し前に出版された若竹千佐子(63歳)の『おらおらでひとりいぐも』とともに、「この人はこの一冊だけなのかもしれないな。でもこの一冊が描けて幸せだったろうな。」と思った作家さんだったからです。
そんな印象を持って読み始めたのがマズかった。
物語に入っていけません。読み辛い文体に飛びまわるストーリー。なんか力が入り過ぎ、凝り過ぎな感じです。介護老人が主人公だった前作から一転して、今回は少年のひと夏の体験を描いた作品なのですが、そもそも主人公の年齢が判らない。やってる事は小学生だけど、思考から最初は高校生くらいかと思いました。読み進めるうちに小学校の高学年?最終的に9歳と判明。いや、男の子はもっと「バカ」ですよ。
上手く乗り切れないまま流すように読了
でも、最後は綺麗にまとまっていて、ほっとしました。

2024年3月27日

読書状況 読み終わった [2024年3月27日]
カテゴリ 歴史・時代

特異な能力を持つ調香師と、彼が住む古い洋館の家事手伝の女性を主人公にした長編です。
文庫版の解説で小川洋子さんが「言葉の意味を越えて、嗅覚が際立つという稀有な体験をさせてくれる小説である。」と書かれているようです。確かに嗅覚をメインに扱った珍しい物語です。ただ、千早さんの小説には臭覚に関する話が多い印象があります。
各章で独立した「事件」を扱い、ミステリー仕立ての連作短編の様な構成です。どこか奥の方に妖艶・淫靡な雰囲気があるのですが、いたって綺麗な物語です。しかし、元々さほどミステリーを好まない上に、ちょっと隔靴掻痒感があり、また『魚神』や『しろがねの葉』の様な力強さがありません。しかし、ラストが上手くまとまって救われました。

実は私、かつて副鼻腔炎を患い、手術したものの臭覚は戻らず、極めて弱いのです。多分そのせいもあって、いまいち入り込めませんでした。

2024年3月26日

読書状況 読み終わった [2024年3月26日]
カテゴリ 一般

いや~、楽しかった。‎536ページという厚手の本ですが、一気読み。
1960年代、ウーマンリブ以前の「仕事は男、女性は家庭を守るもの」とされていたアメリカ社会。才能ある化学者の主人公のエリザベス・ゾットは、女性というだけで無能な上司・同僚からのいやがらせ、セクハラを受け、その果てに研究所から放り出さてしまう。そして、ひょんなことから得た「化学的な料理番組」の出演者という仕事で成功して・・・というお話。
何と言っても主人公のキャラが良いですね。とにかく融通が利かない。真面目。そして一生懸命。でも、良い人なのです。だから、周りには主人公に振り回されながらも、彼女を支える人々と一匹の犬が居る。アメリカにもこんな時代が有ったんですねぇ。
出だしから結構なテンションで走り始めます。色んな挫折が描かれるのですが、シリアスながらもなんか可笑しく、重くなりません。最後はちょっと出来すぎのエンディングでしたが、とっても良い読後感です。

ちなみに、、、私も遠~い昔、有機化学の学生でした。
主人公が自宅のキッチン兼実験机で、フラスコとビーカーを使って美味しいコーヒー(彼女の家ではC8H10N4O2=カフェインの分子式のラベルが貼られている)を入れるシーンがありますが、そういえば私もインスタント味噌汁をビーカーで飲むなんてことはしてたな~なんて思い出してしまいました。でもね~、どうせコーヒーを入れるならソックスレー抽出器を使って欲しかったな(笑)

2024年3月22日

読書状況 読み終わった [2024年3月22日]
カテゴリ 一般

どこかで好評価を見かけ、調べたら著者の清水裕貴さんは写真家、グラフィックデザイナーとして活躍している方と知って興味を持ちました。
しかし、ダメでした。
震災などで被災した家具を仕立て直して販売する家具店の 職人見習いの女性を主人公にした連作短編集です。過去を背負った家具を相手に、ごく自然な流れでオカルト的な話に入り込んでいくのですが、どうもそれが不自然に感じられるのです。普通、もう少し驚いたり、怖れたり、原因を探ったりするでしょう。
不思議な世界が嫌いなわけでは無いのです。梨木香歩さんの『家守奇譚』も、川上弘美さん『神様』も、小川洋子さんの『沈黙博物館』も好きです。でも、この物語には入っていけませんでした。

2024年3月19日

読書状況 読み終わった [2024年3月19日]
カテゴリ ファンタジー

初、植松三十里。どこかで非常に好意的な書評を見かけ読むことにした本です。
江戸時代の実在の産科医・賀川玄悦を描いた作品。
幼い頃に実の母を出産で失った玄悦は、医学を志して京都に上京するも医家には受け入れられず、やむなく鍼灸・按摩師として暮らしていた。しかし、たまたま隣家の妻の出産危機を救ったことから産科医として名を成していく。
主人公の、常に現場現物主義というか、妊娠に実証的に立ち向かい産科医療を発展させていく物語そのものは面白い。このあたりを絶賛している書評を良く見かけます。ただ、どうも「人」が弱い気がします。登場人物の性格付けがふらついて、読んでいてなんだか落ち着きませんでした。

2024年3月14日

読書状況 読み終わった [2024年3月14日]
カテゴリ 歴史・時代

市井物の時代短編集。8編「帰ってきた」「向こうがわ」「死んでくれ」「さざなみ」「錆び刀」「幼なじみ」「半分」「妾の子」
初期のどうしようもなく暗かった頃の藤沢周平を思い出します。
まあ、砂原さんご自身が「デビュー直後から藤沢周平への私淑を公言していた。」とおっしゃっているので影響を受けているのは間違い無いようです。
そうは言っても「焼き直し」ではありません。短編ながらストーリーのヒネリがやや強く、クルリと反転する感じは周平さんと少し違います。また、最後の一編を除き、主人公が闇に堕ちて行くところは似ていますが、その闇は初期の周平さんの様な漆黒ではなく、やや月明かりが差す闇の様です。
暗転ではなく、暗から明に転回する「妾の子」を最後に置き、少し晴れ晴れとした読後感になりました。

2024年3月11日

読書状況 読み終わった [2024年3月11日]
カテゴリ 歴史・時代

久しぶりの長嶋さん、随分楽しめました。
中編「トゥデイズ」と短編「舟」の2編。
「トゥデイズ」はちょっと古いけど大きなマンション群に暮らす一家を描いた作品。冒頭が同じ棟で起きた飛び降り自殺という不穏なスタートですが、やんっちゃ盛りの5歳の息子を見守るごく普通の夫婦の日常を描いた作品です。
長嶋さんらしく、特に何か大きな事件など起こるわけでは無いのですが、読むにつれどんどん引き込まれて行きます。同じように大きなマンション群に住み2歳の息子を育てている娘夫婦のことなど思い出しながら、「そうだよな~」「そうなんだろうな~」と思いつつ読み終えました。
一方「舟」はコロナ下で歯列矯正に通う女子高校生の恋とも言えないような淡いときめきを描いた作品です。やや古風なタイプにも思えますが、多分普通の女の子ってこんなものなのかな。なんかホッとする短編でした。

2024年2月29日

読書状況 読み終わった [2024年2月29日]
カテゴリ 一般

バーネットではありません。なんか、ぽくないタイトルですが「南総里見八犬伝」で有名な曲亭馬琴の一生を描いた歴史小説です。
最近のまかてさんは、歴史上の人物を虚飾することなく史実に沿って描こうとしているようです。いわばリアリズム。この作品もそうで、武家の二男として生まれた馬琴は悪人では無いものの吝嗇で教条的、作品に対しては偏執的で版元や摺師を辟易させる。奥さんの百も強烈で、癇性で周りに毒のある言葉を吐き続ける一方で、幼児には我が子でなくても気を遣う。病弱な息子の宗伯は父に対しては従順だが、母や妻女には母譲りの癇性を発揮する。そんな崩壊寸前の家庭の中、馬琴は膨大な量の小説を描き続ける一方で、何度も滑り落ちる滝沢一門を武家に留めようと奮闘する。
子を亡くし、妻を亡くし、自らは失明しつつも嫁の手助けを受けながら「南総里見八犬伝」を完成させていく「百年の後」と題された最後の一章で印象が変わって行きます。亡くなった妻子を懐かしみながら先を見つめる老いた馬琴の姿がどこか清々しく。
まかてさん、植物好きなのでしょうね。植木職を主人公にした作品も多く、『類』でも森鴎外の庭いじりが描かれました。この作品でも最愛の息子との庭仕事のシーンが多く『秘密の花園』のタイトルの由来になっています。

2024年2月24日

読書状況 読み終わった [2024年2月23日]
カテゴリ 歴史・時代

舞台は京都で、登場するのは本家ホームズ・シリーズの登場人物。日本人は一切出てこないという不思議な設定。まあ、ロンドンを舞台にしたら本家の二番煎じにしかならないし、森見さんが書くならいっそ京都を舞台にしてという発想なのかな。まあ、見も知らぬロンドンより京都の方が土地鑑はありますけどね。
森見さんといえば
・青春をこじらせた自意識過剰なヘタレ大学生
・京都の夜の暗闇に舞う極彩色の、派手やかだけどどこか物悲しい雰囲気
・時間や空間を超えて飛び回る物語
なんてものを思い起こしてしまいます。
この作品ではヘタレ大学生→ヘタレ・ホームズ。さらに森見さんお得意の黒髪の乙女→女性探偵アイリーンとワトソンの妻・メアリでしょうか。
本作の後半は、一気の展開、さらに展開、もう一ひねりと怒涛の展開をしますが、「京都の夜の暗闇に舞う極彩色」がロンドンの風景になり、やはり「時間や空間を超えて飛び回る物語」となります。
物語の捩じ呉れ方は、どこか怪作『熱帯』を思い起こさせますが、もう少しまとまりは良い。とは言え、ワトソン・ホームズを主人公にしながらミステリーでは無くファンタジー。謎は解明されない、というかそもそも「謎」ではなくファンタジーの「設定」です。
流石の奔放さですが、も一つ何か心に残る、例えば「爽快さ」とか「もの悲しさ」と言ったエモーショナルな読後感が欲しかた。

2024年2月16日

読書状況 読み終わった [2024年2月15日]
カテゴリ ファンタジー

流石、クレージーさやか、よ~~判らん(笑)。
彼氏とのセックスに嫌悪感を感じ自分の性所属を疑う19歳の里帆。如何にも大人の女性と言った雰囲気を持つ31歳の椿、椿の同級生で人間世界をままごと遊びの様な架空現実としか捉えられない千佳子の3人の女性が主人公。
読んでる途中は(主人公が女性だという事もあって)なかなか感情移入も難しかったのですが、読み終わって頭を整理すると、「女性」を言う枠にどっぷり帰属している椿と、何とか自分が帰属する性認識枠を見つけようとする里帆と、淡い期待はするものの帰属に拘らない千佳子という帰属意識の異なる3人を描いた物語と捉えると、何となくすっきりしました。
村田さん、これが良いよと結論を押し付ける訳でもなく、まあ、色々あるよね~と言っているようです。

2024年2月8日

読書状況 読み終わった [2024年2月8日]
カテゴリ 一般

どこかで好意的な評価を見つけ図書館で借りだした本です。
主人公の少年・ピエトロは、登山を愛する父と同じく山好きな母と大都会・ミラノに暮らす三人家族。一家は夏休みに山の中のグラーナ村に滞在し、ピエトロは父と一緒に山歩きをしていた。ピエトロはそのグラーナ村で親から蔑ろにされている少年ブルーノと出会い、親友になります。彼らの30年にわたる交流を描いた作品です。
特に何かの事件が起こるわけではありません。ごく普通に家庭内で起こる事、父に対する反抗、出会い、別れ、悩み、漂い続ける、そんな姿が端正に淡々とつづられて行きます
そしてその背景には北イタリア、モンテ・ローザやヒマラヤの山麓の目に浮かぶような見事な描写です。
何故か心にしみます。
読了後、裏表紙に松家仁之さんの解説を見つけ「あ~~」と思いました。そうかこの本は松家さんが創刊した「新潮クレスト・ブックス」から出版されていて、松家仁之さんの作品に共通するものがあります。例えば私は松家さんの『火山のふもとで』の感想に
「・・・丁寧に端正に語られる静かな物語です。
ストーリーに大きな展開があるわけでは無いのですが、一言一言を選び抜いてじっくり書かれた様子がうかがえます。」
と書いていました。
2022年に映画化され第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。昨年5月には日本でも公開されているようです。「観たら読まない、読んだら観ない」が私の原則なのですが、山の映像が美しいであろうこの作品については観てみたい気がします。

2024年2月2日

読書状況 読み終わった [2024年2月2日]
カテゴリ 一般

『線は、僕を描く』の続編。
この本の最後のページに、師・篠田湖山が主人公の絵を評した以下の様な一文があります。
「湖山門下屈指の余白の感性に感服し、篠田湖山がタイトルを決めた。描かれた湖の線と描かれなかった余白はほぼ等分されている。描かないことによって湖面の広さと輝きを見事に表現している。また水平線を一筆で描いた筆致が美しい。」
ところが。。。
この本についていえば「余白」が感じられないのです。重要なシーンになればなるほど次々と文章が書き連ねられます。そして力が入り過ぎて独りよがりの文章になり、伝わってこなくなります。結果、余白ではなく「空白」が出来てしまう。本当にうまい作家さんなら、ただ一つの主人公の所作や行間で表現するところをまるまる1ページ使って一生懸命説明しようとする、そんな感じです。
しかし、やはり水墨画を描くシーンは秀逸です。何をどう捉え、何を考え(あるいは考えず)、引かれていく一本の線。描かれた水墨画を「見たい!」と思わせる文章は、水墨画家である砥上さんだから書けるものでしょう。その一点だけでも読む価値のある作品だと思います。

2024年1月25日

読書状況 読み終わった [2024年1月24日]
カテゴリ 一般

っぽく無いタイトルですが、生粋の時代小説です。
英邁な藩主。その身の回りの世話をし、藩主からの信頼の厚い小納戸頭取の父。そして目付の主人公。藩主の持病は痔。領内に住む蘭学の医者に全身麻酔下での手術を受け、成功するのだが・・・。
痔、あるいは主人公の子の鎖肛(肛門が生まれつきうまく作られなかった病気)と、蘭学に関係して下半身の病気を取り上げたのはなかなか面白い試みです。
相変わらず厳しい文体で、武家の生き様を描いていきます。父と子のみならず、母や嫁も、みな異常に張り詰めている感じです。そして、他に登場する脇役(武士以外)たちも悪人が居ないというばかりでなく、弛緩した人物が出て来ません。もともと奇矯と言っていいほどの武士の倫理観を描くのが得意な青山さんですが、ちょっと行き過ぎかも。デビューして10年以上たち、もう少し肩の力の抜けた作品が出てきても良いような気がします。
一種のサスペンスドラマで、最後に謎解きがありますが、少々無理があるかな~。

2024年1月21日

読書状況 読み終わった [2024年1月21日]
カテゴリ 歴史・時代

日露戦争前夜の北海道を舞台にした、いわばマタギもの。
アイヌではないが、その生き方を学び、山中で一人、猟を中心に生きる熊爪という男をを主人公にした物語。時々、肉や毛皮、山菜などを持って里に下り、火薬などを買って山に戻る。街や人との付き合いを厭う主人公の獣の様な性格が見事に描かれます。
マタギものと言えば古くは吉村昭や戸川幸夫、比較的最近では熊谷達也さんなどがありますが、そこは女性作家。因縁を持つ熊を倒した後の男女の愛憎物語が相当なウエイトを占めます。主人公の熊爪もですが、それにもましてヒロイン・陽子の心の動きは理解し難いものがあります。不思議なロジックなのですが、なぜかそれも有りかと思ってしまう奇妙な説得力のある物語でした。

2024年1月16日

読書状況 読み終わった [2024年1月16日]
カテゴリ 一般

久しぶりの重松さんです。
2000年に私が全読了本の感想を書き残すようにしてからは一番多く読了した(68作品)作家さんです。もっとも流石に少しマンネリ感を感じて、2020年『永遠を旅する者』を最後に少し冷却期間を置くことにし、しばらく手を出していませんでした。
「あの年の秋」「旧友再会」「ホームにて」「どしゃぶり」「ある帰郷」の5編。「どしゃぶり」は150ペーほどある中編です。中年~初老男性を主人公に、親の介護、故郷との決別、離婚、そんな状況を舞台にしたした物語群です。
一人称小説です。様々な事態に接し、主人公が心の中で想いを語りますが、実はその深層には別の想いが流れていることを匂わせます。重松作品では良く使われる手法です。
やはり上手く「泣かせ」てくれます。初老の男性の「悲哀」も心に沁みます。でも、どこか既視感が漂います。
やはり、もう少し冷却期間が必要なようです。

2024年1月13日

読書状況 読み終わった [2024年1月13日]
カテゴリ 一般

名作『夜市』の直後に書かれた作品の様です。
この小説の舞台になる「穏」という異世界は、どこかノスタルジックで儚く、少々不気味で『夜市』の世界を思い起こさせます。主人公の少年もボーイッシュな少女も魅力的ですし、穏の中にある墓町の闇番の活躍など秀逸です。
ある事件をきっかけに「穏」を逃げ出し現実界・東京に戻った主人公は、そこで魔性との戦いに巻き込まれます。こちらは残虐、おどろおどろしい世界です。ただ終盤は無用なごちゃごちゃ感があり、まとまりに欠けたり、妙に淡白な所もあって少々残念でした。

2024年1月10日

読書状況 読み終わった [2024年1月10日]
カテゴリ ホラー

鎌倉で代書屋を営む女性・鳩子を主人公にした描いた「ツバキ文具店」シリーズ第3弾。
安出来なTVサスペンスでは、地方の観光スポットが必然性も無く映し出され失笑してしまいますが、鎌倉を舞台にした小説でもしばしば「観光案内か」と言いたいくなる物に出会います。その点このシリーズは抑制が効いている印象でした。しかし、この1冊に関しては少々気になり、さらに伊豆大島の旅の章についてはまったくTVサスペンス並みです。よほど気に入ったのでしょうね。
実は最近、どうも頭でっかちな気がして小川糸さんからは離れていました。どの小説家でも、著者の思想が物語の裏に流れるのは当然です。しかし小川さんの場合、自分の思想・コンセプトを表現するための物語という風に感じてしまうのです。考えが物語の前面に出る。思想を言いたいために必然性のないシーンが設定される。そんな風に見えます。
このシリーズについても、特に本作は少々その嫌いはあるのですが、鎌倉のしっとりとした情緒の中で穏やかに語られる物語でした。

2024年1月6日

読書状況 読み終わった [2024年1月6日]
カテゴリ 一般

黒蟹県という架空の県に暮らす人々を描いた連作短編。
描かれているのはごく普通の暮らしなので、わざわざ架空の県にしなくてもと思いましたが、そういえば絲山さんは『まっとうな人生』で富山を描いたり、元々はどちらかと言えば土着型。やはり、それでは色々差支えがあって書き難さがあるために、わざわざ地図やロゴまで描き、黒蟹県を創作した様です。章間に置かれた「黒蟹辞典」もおしゃれです。
時々奇妙な神が姿を見せます。何せ全知全能ならぬ半知半能。人々の上に「君臨する」わけでなく、いつの間にか隣にひっそりと立っているのです。
住民のごく普通の生活、あるあるを描きながら、そこにスルり神様が割り込んでくる感じです。ただし全編を通しての何かテーマがあるという感じはしません。
中々面白いのですが、感想は書きにくい。

2023年中に読み終えられそうだったのですが、最後の一章が年越しとなりました。年末のドタバタにまぎれ、上手く読めていない気がするので、再読したいですね。

2024年1月3日

読書状況 読み終わった [2024年1月1日]
カテゴリ 一般
ツイートする