わたしは目で話します

  • 偕成社 (2013年2月2日発売)
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(No.13-18) ノンフィクションです。

内容紹介を、表紙裏から転載します。
『「文字盤」を知っていますか?
口で話したり、手を動かしたりすることの難しい人が、目で言葉を発するための道具です。
この本は全編、その文字盤をつかって、目で書かれました。

聾学校の教師から、ドイツ語の翻訳者へ、そして難病ALSを発症し、音声言語を失うまで・・・。
一貫して言葉の問題にかかわり続けてきた著者が、病を得て、今あらためて思うこととは?

話すことに悩みをもつ、すべての人々へ贈るメッセージ。』

私はALSという病気があることは以前から知っていましたが、この本を読んでとてもショックを受けた項目があります。
女性である著者も発症する前は何となくそう思っていたらしいのですが、私もALSになる人はほとんどが男性で女性は少数だと思っていました。
男性に患者が多いのは確かなんですが、その男女比は約2対1くらいなのだそうです。3人患者がいれば一人は女性ということになります。ですが進行して呼吸器をつけなければ生きることが難しくなった段階で、呼吸器をつけない女性患者が多い。つまり緩和ケアをしつつそのまま亡くなる女性患者が多いのだそうです。
正確なデータはないのですが、いろいろなデータをつまみ食いした感じでは呼吸器をつけた患者の男女比は8対2か、9対1くらいになるようです。
時々メディアに登場する患者さんが男性ばかりになっている理由はこれだったのです。
呼吸器をつけるのは「お父さん」や「おじいちゃん」がほとんど、「お母さん」はつけたがらない・・・・。
そして女性が「私は呼吸器をつけない」と決断するのは個人的な性格ばかりとはいえず、そういう力が社会に働いているからだと著者は気がつきました。
つねに世話をする側だった女性が、世話をする側からされる側になった時の家族の混乱振りと自分の無力さから「自分は迷惑になるからいてはいけないのでは?」と感じてしまう・・・。
これは衝撃でした。
呼吸器をつけ「女性患者はいったいどこにいるのー?」と文字盤で叫びながら、情報を発信している著者は立派だと思います。

この本は闘病記の部分はもちろんありますが、言語についての項目が大変興味深かったです。
自分の中で思っていることを外に出すことがどんなに重要か。それこそが生きることなのだと。
会話の手段が変わると文法まで変わるとか。

基本的なものは市販されているけれど、様々に工夫してその人に使いやすいようにすることも出来るし、ローテクで安価、誰でも使えるすぐれもの、それが文字盤!
世界中に文字盤はあるけれど、おそらく日本語は群を抜いて文字盤向き。
それを知ってなんだかとても心強く感じました。

話すことが出来なくなって生きる気力を失いかけていた著者は、文字盤で息を吹き返しました!

辛いことがいっぱいあるのに、それでも生きて仕事をする著者の姿勢に感動しました。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2013年3月31日
本棚登録日 : 2013年3月31日

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