ネアンデルタール人は私たちと交配した

  • 文藝春秋 (2015年6月27日発売)
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最近,古代人類のDNAの研究が熱い。
長い間,古代人のDNA解析は,細胞内に大量にあるミトコンドリアに関するものに限られてきた。その成果でさえ,欧州の母系祖先として7人のミトコンドリアイブが同定されたり,日本人の母系祖先が様々なルートで日本列島に流入してきたことが推察されたりするなど,とても知的刺激に溢れていたのだが,一方で,ミトコンドリアDNAからは,我々サピエンスとネアンデルタール人とが交配した証拠は見つからなかった。古代の核のDNAについては,映画ジュラシックパークの後,琥珀の中や化石の中から何万年どころか何千万年も前のDNAを抽出して塩基配列が分かったという論文が,雨後の竹の子のように世界中から何本も出たが,後になってどれもみな間違いであることが判明した。そのような喧噪の中,本書の著者ペーボ教授は,世間から距離を取り,「ズルをせず」,極めて地道に古代の核のDNAの抽出に取り組んだ結果,試行錯誤の苦労の末の大逆転として,ついに4万年前のネアンデルタール人のDNAの解析に成功したのである。驚くべきことに,ネアンデルタール人のDNAは非アフリカ人を除くサピエンスすべてに数パーセント共有されており,アフリカを出たサピエンスが中東でネアンデルタール人の遺伝子を取り込んで世界中に広がっていったことが分かった。
 この回想録では,そうした科学上の成果だけでなく,研究者としての野心や他の研究者との論文発表を巡る駆け引き,さらには自身がバイセクシュアルであることやノーベル賞受賞者である父親の愛人生活などの私生活までが赤裸々に書かれていて,下手な小説を読むよりはるかに面白い。
 また,本書の最後には,著者がネアンデルタール人の次に取り組んだユーラシアのデニソワ人に関する研究の初期の成果が紹介されている。デニソワ人はネアンデルタール人に近縁な別の人類で,やはりネアンデルタール人やアジアのサピエンスと交配していたことを明らかにしたのだが,本書の刊行後の最近の研究では,チベット高地人の高地順応遺伝子は,突然変異と淘汰の結果ではなく,デニソワ人から取り込んだものだと判明したほか,しかし,デニソワ人のゲノムはネアンデルタール人のゲノムよりもサピエンスのゲノムとの違いが大きいことから,デニソワ人と交配した未知のホモ属がいる可能性があるなど,当分は古代人類のゲノム解析から目が離せそうにない。
mak
図書館蔵書なし

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感想投稿日 : 2019年5月23日
本棚登録日 : 2019年5月23日

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コメント 1件

tokudaidokusho2さんのコメント
2019/05/29


ペーボ教授の地道な研究もそうですが、それ以上にペーボ教授のプライベートに惹かれて読みたいと思いました。
とわ

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