アウシュヴィッツで考えたこと

著者 :
  • みすず書房 (1986年12月1日発売)
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感想 : 2
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いまだベルリンの壁が東西を隔てていた時代に著者が旅した東ヨーロッパが随筆風に描かれている。東側(=共産主義)と聞けば北朝鮮や中国の問題でポジティブに捉えられることは今日少ないが、東欧はなかなかもって悪くない社会だったことを知り、軽い衝撃を覚えた。悪くないどころか、著者によると、この東方諸国の社会主義化はキリスト教会にとって良い影響も与えたという。それは、それまで国家教会として国家の庇護の下に存在してきた教会が、国家の社会主義化によりいやおうなく「政教分離」されることになった。それゆえある種の「自由教会」となることを余儀なくされたことになる。自由教会となって初めて教会は自らの信仰的力によって自存しなければならなくなるなるのであって、それゆえ本気で信仰を働かせるきっかけとなるのだ。無神論を標榜するマルクス主義が支配的に成ることによって、かえって教会が強められるというこの逆接。新鮮な視点であり、それを得ただけでもこの本を読む価値があった。後半はルターが主に扱われているが、このルターをどのように評価するかということの重要性を改めて認識されられた。福音的信仰の復興者としてどれだけ評価しても足りないルターだが、かのヒトラーがそのルターを自らの正当化のために持ち出していたことは忘れてはならないだろう。ヘビのように聡くあることが求められている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 思想・社会
感想投稿日 : 2006年7月19日
読了日 : -
本棚登録日 : 2006年7月19日

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