漂流 (新潮文庫)

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著者 : 吉村昭
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真壁和裕先生(総合科学部環境共生コース)ご推薦

突然の時化のため土佐沖から黒潮で流された江戸期の漁師・長平が主人公の,史実に基づく記録文学である。漂流の記録があるということは,読み手は長平が最後に帰れることは分かっている。しかし,途中ずっと気が気でなくなるほどに,臨場感に溢れている。漂流して行き着いた絶海の孤島は鳥だけが通う島で,水もなく草さえ生えていない。生活は切迫していて,一日を生きていくだけでも想像以上に大変である上,いつ終わるのかも分からない。嵐の度に難破船の破片が漂着するが,しかし生還した話などほとんど聞いたことがないということは,毎年多くの船が難破し,大多数の漁師は陸に辿り着けずに命を落とすということだ。長平が12年後に帰郷できたことは万に一つの僥倖に違いないが,その裏側には,どんな絶望のなかでも希望を捨てずに冷静な状況判断に基づいてあらゆる努力を怠らないという,閉塞した現代社会に生きる我々にとっても学ぶべき類い希な姿勢があったことが分かる。緊迫した描写にこちらまでが緊張し,帰郷の目処がつく辺りまでまるで口の中にずっと海水を含んでいるような感覚さえ持った。けだし漂流小説の傑作である。

レビュー投稿日
2015年7月6日
本棚登録日
2015年7月6日
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