靖国史観: 幕末維新という深淵 (ちくま新書 652)

著者 :
  • 筑摩書房 (2007年4月1日発売)
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感想 : 8

坂本龍馬が靖国の英霊になっているのは知らなかった。龍馬ファンはこの事実をどう受け止めているんだろうか?本書は靖国神社の思想的根拠は神道ではなく儒教であるとし、その根拠を後期水戸学に求める。そして、皇国史観≒靖国史観≒司馬史観?とし、王政復古の大号令には正当性がなく、靖国神社は反体制テロリストを祭る施設としてスタートしている事を問題視する。また、「勤皇の志士」に比べれば東条英機の方が人格的には高潔で立派であるとまで言い切る。著者の言うように、見方によっては小御所会議も東京裁判もインチキである事には変わりはなく、このように歴史を「相対化」する視点は必要に思える。
著者の主張を是とするなら、確かに靖国問題は国内問題であって、中韓からとやかく言われる筋合いはないと言える。しかしながら、現実問題としてとやかく言われている事にどう対応してくべきなのか?という課題は残る。この課題の解決に関しては著者の専門領域外であり、本書が対象外とする課題でもあるだろう。ここが歴史家(思想史家)の限界なのだろうが、各々専門が違うので仕方のない事ではある。
とはいえ、1945年に関しては数多の反省があり、靖国問題も盛んに論じられているが、1968年に関しては反省どころか懐疑もなく、肯定的に捉えられているのが実情である。靖国問題を考える上で必要な観点は前者だけではなく、後者にもクローズアップする事の必要性を訴えた著者の問題提起は傾聴に値する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年6月10日
読了日 : 2020年6月10日
本棚登録日 : 2020年6月10日

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