長束正家を主人公とした歴史小説。正家は豊臣政権の五奉行の一人である。算術の才で仕え、秀吉の戦いの兵站を支えた。秀吉を描いた作品では弟の秀長は秀吉を支えた善人と描くが、本書の秀長は私腹を肥やす人物である。身内には良い親父が大きな組織になると害悪になる例だろう。一方で秀長は秀吉に直言できた人物だったと評価している。
兵站の大切さが語られる。十万人の行軍ならば十万人分の補給を考えなければならない。『吾妻鏡』は奥州合戦の幕府軍を二八万騎、承久の乱の幕府軍を十九万騎とするが、現実離れしている。
天下人は諸大名に号令して戦を行う。しかし、その兵站は秀吉と他の天下人で相違があった。他の天下人の場合、補給は諸大名が自分で行う。これに対して秀吉の場合は「兵三百を出せ」と言われたら、大名は基本的に兵三百を出した。兵站は石田三成ら奉行衆が手配した。その代わり米を某所に送れ、材木を某所に送れと命じられた大名もいた。この統一的なロジスティックスは九州征伐や小田原征伐では成功した。豊臣政権の空前絶後なところであり、天下統一までの秀吉は神がかっていたと言われるほどである。
秀吉は恐怖政治の独裁者になっていた。「みな秀吉の顔色をうかがうばかりだから、こちらの言い分ばかり押しつける結果となり、奥羽大小名の不満は押さえつけられるばかりで、解消されることはない」(187頁)。これは市民に負担を押し付けるだけの現代日本の官僚組織と重なる。
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2023年1月8日
- 読了日 : 2023年1月8日
- 本棚登録日 : 2023年1月8日
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