レトリックと詭弁 ─禁断の議論術講座 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房 (2010年5月10日発売)
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 長らく絶版になっていた、香西秀信先生の『「論理戦」に勝つ技術』(PHP)が、ちくま文庫に入って復刊されました!

 香西秀信先生は、宇都宮大学教授で、修辞学(レトリック)と国語科教育学をご専門とされていらっしゃり、主に前者についての著作を上梓されています。と同時に、僕の私淑する「議論とレトリックの師匠」であり、著作をコンプリートしているんですが、その中でも一番面白いのがコレです。

 ゴチャゴチャ言うより、内容をかいつまんで見て頂きましょう。

■第一章 議論を制する「問いの技術」
 第一話 赤シャツの冷笑……問いの効果
 「あなたの仰ゃる通りだと、下宿屋の婆さんの云う事は信ずるが、教頭の云う事は信じないと云う様に聞えるが、そう云う意味に解釈して差支えないでしょうか」

 夏目漱石の『坊っちゃん』で、赤シャツとあだ名される教頭が坊っちゃんをやり込めたセリフです。
これのどこがおかしいかを論理的に説明しながら、議論において問いを設定することがどれだけ議論において優位に立てるかを説明していくのです。

 こんな感じで、古今東西の本から面白いレトリックを引き出し、それの構造やはたらきを解説しています。
そして、それと関連して、議論に大切なテクニックや考え方を色々解説されています。
 何と言いますか、ものすごく頭の良い野球の解説を聞いてるようなところがあるんですが、野球の解説と違うのは、凡百の「論理的思考本」なんかとは比較にならないくらい面白く、かつ役に立つところです。
 議論について、本質的で骨太な少数のツールを実例の形で使っているから、読むだけで自然とそういう考え方が身についてくるんだと思います。

 以下、好きな章を思いつくまま挙げます。

 第二話 カンニング学生の開き直り……「問い」の打ち破り方
 「他にもやっている人がある。要領よくやっているのが得をして、たまたま見つかったものが損をするのですか」

 これを読んだ”理屈っぽい方々”は、多分反論したくてウズウズしているはず!
 香西先生はこの学生を思いっきり論破すると共に、この理屈に「一理ある」と思ったバカ教師にも、返す刀で一閃をくれています(笑)。

 第三話 北山修の後知恵……論点の摩り替えその①
 「ホットドッグ一つで寝ることがいけないのなら、数百万もするダイアモンドの結婚指輪をもらって寝ることはイイことなのか」

 もう、こういう理屈、大好きです!(笑)

 第四話 西行の選択肢……二者択一の力
 「そも、保元の御謀反は天の神の教へ給ふことわりにも違はじとおぼし立たせ給ふか。又みづからの人慾より計策り給ふか」

 『雨月物語』の白峰から。
 崇徳上皇の怨霊に説教をかます西行萌え。

■第二章 なぜ「問い」は効果的なのか?
 第五話 村上春樹の啖呵……相手の答えを封じる問い
 「ふん、長ズボンはかなくちゃ食えないような立派な料理なのかよ」

 …逆ギレですよね、これ(笑)。

■第四章 「論証」を極める
 第十三話 芥川龍之介の「魔術」……相手をはめる
 「そこで僕が思うには、この金貨を元手にして、君が僕たちと骨牌をするのだ」
芥川龍之介の『魔術』という短編から。

 本当に議論の上手い奴というのは、なんかどうにも腑に落ちないと相手に思わせているにもかかわらず、理屈の力で納得させてしまうところにその上手さがある、という好例です。
 理屈に自信のある方は、香西先生の「答え」を読む前に、青空文庫なりで芥川の『魔術』をお読みになり、一度自分で考えてみられることをオススメします。

■第五章 議論を有利にするテクニック
 第十七章 イワン・カラマーゾフの辞退
 「僕はなにも神を認めないというんじゃないよ、いいかい、アリョーシャ、ただその入場券を神様に謹んでお返しするだけの話さ」

 このセリフにしびれました!
 これを知って以降、僕は神の実存についての議論自体が幼稚に見えてしまいます。


 大学教授の書いた本だから、硬い本なんじゃ?と思った方。そんな方は是非この本の前書きをお読み下さい。
 「うわ…ムチャクチャ言ってる、この人www」
 と度肝を抜かれること請け合いです。

 正直、復刊は嬉しいのですが、人に教えたくないくらいという思いがあります(絶版を機に内容を独り占めしたかったんです)。
 僕の人生において、文句なくベスト3に入る名著です。人生で一番読み返して楽しんでいる本かもしれません。

 とにかく、騙されたと思って読んでみて下さい!


http://tomiya-sangendo.blogspot.com/2011/11/crossreview10020118.html

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年3月8日
読了日 : 2011年6月3日
本棚登録日 : 2011年6月3日

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