作者は絶対根性悪いと思います!(笑) いや、貶してるのではなく、最高の賛辞として言ってます。
本作は、モノローグ形式で書かれており、章ごとに語り手が変わります。つまり、章ごとに視点が変わりながら事件の全体像が浮き彫りにされていくわけです。
この形式を面白いなと思ったのは、その語りと一緒に語り手の主観が入ってくるわけですが、これが見事に歪んでます(笑)。
正直、この小説に出てくる人間のほとんどに感情移入できません。程度の差はあれど、みんなどこかちょっとずつおかしいんです。
本作は好き嫌いがハッキリ分かれそうな印象を受けます。というのは、子供に対する愛であったり、悪いことをした奴を懲罰したいという正義の心といった正しいとされているものが、醜い行いの動機として使われているからです。悪い奴が単に悪いことをしてるだけならそれはそれでスッキリするんですが、こういう風に我々が正しいものと思っているものの延長線上に嫌悪を抱くようなものが生まれる…とやられるとキツイものがあります。
しかも作者はこういう「愛や正義の暴走」を非常にシニカルな視点から描いています。あるときはクラス内のいじめを客観的に見る女子生徒の視点を通じて、またあるときは子を盲目的に愛する母親の身勝手な思考の独白を読まされた我々読者の中に生まれた違和感を通じて。描き方が上手いんですが、それだけに嫌ーな気持ちになっちゃうのが嫌ですね(笑)。
ただ、個人的にはこういう視点は嫌いじゃありません。特に、ウェルテルに対する作者の評価には、もうたまらないものがあります! (便所の100ワットみたいに、無駄に明るいだけが取り柄の奴は個人的に苦手でして…)
本作を支える「暗い情熱」は「暗い爽快感」を生むんですが、私自身、愛情や正義などに陶酔してはた迷惑な行為に及ぶ奴が嫌いだったので、そういう奴がしっぺ返しを食うような話は嫌いじゃありません。
ただ、共感を覚えつつも思います。「この作者、絶対性格悪いって!」って(笑)。
- 感想投稿日 : 2012年3月28日
- 読了日 : 2012年3月28日
- 本棚登録日 : 2012年3月28日
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