先を予測するという行為は人に特有であると何かの本で読んだことがある。もし他人より上手く先を読むことができれば、強力な競争優位となるだろう。

本書は、情報理論で有名なクロード・シャノンの作った先読み装置の話から始まる。表か裏か(0か1)を選んで当てるゲームだが、シャノンの機械の勝率は6割近く、人はたかだか16ビットの単純な機械よりも下手な意思決定をしてしまうということだ。

この拙い意思決定の裏には、行動経済学でいわれる様々なバイアスが多分に影響しているが、本書が特に強調するのは、ランダムについての錯覚である。

コインを10回投げて4回続けて表がでたら、どう思うだろう?コインのバランスを疑うとまでは言わないまでも、次は裏が出そうだと思うのではないか。当たり前だが確率はいつでも50パーセントである。

このような錯覚から、人は運とかツキとか、自分の能力を過大評価したり、詐欺師に騙されたりする。

本書は、じゃんけん、粉飾の検出、住宅価格、株式投資など様々な場面で、マシな戦略をとる実践的な方法を指南するという体裁を取っているが、実は人の無力さに気づかせるのが主旨ではないかと、そう読んだ。

2019年10月23日

読書状況 読み終わった [2019年10月23日]

学校を卒業して働き始めてから、定年や引退で働き終わるまで何年くらいか?大学卒のサラリーマンなら40年強だろうか、定年次第では50年近くかも知れない。人生の半分近くあるいはそれ以上の期間を私たちは仕事をして過ごす。

良い人生を送りたいのと同様に、人生の大半を占める仕事についても、良い仕事をしたいと思うのは自然なことだろう。

部下との会話で、お金のためだけに働いている、やりがいはどうでも良い、といったことを聞くと、何とも寂しい気持ちになる。成長、意義、貢献、協力、感謝など、いろいろ説明してみるが、どうしても響かない人もいる。その人にとって良い仕事とは何だろうか?

また近ごろ流行りの働き方改革は、労働人口拡大、残業代削減、生産性向上あるいは出生率など、さまざまな思惑・打ち手があるものの、個人の幸福という観点から、良い働き方とはどんなものだろうか?

本書は、キャリアコンサルティング会社を起業し、主に企業内のキャリア研修を行う著者による、「仕事」についてのさまざまな視点、論点のガイドブックである。

キャリア、成長、能力、モチベーション、会社、メンタルの6つのパートをイラスト満載で説明していて、理論や知識を整理できるのは勿論だが、自分ごととして読み進めると、仕事について幅広く改めて考える貴重な機会となる。

本書は、読者が仕事について健やかな「観」をもつことを目的としている。そのため、さまざまな考え方についてどれが正しい、良いとは断言せず、自分で考えさせるスタンスだが、全体としては、自分自身を縛らず、変化に対応でき、より多くの人から共感される道を目指した方がよい、というメッセージは伝わってくる。

何か仕事で行き詰まっている人、何の迷いもなく熱中している人、部下を成長させたい人、仕事を休憩している人、それぞれの状況で、本書は長期的観点から幸せについて示唆を与えてくれると思う。

2019年10月8日

読書状況 読み終わった [2019年10月8日]

私たちが日常当たり前のように、空を見て空だと認識し、地を歩いて歩いていると認識している。これは誰から見てもそうなのか?絶対的な意味で本当だろうか?

こういうと、相対主義の話かと思うかも知れない。

本書の位置づけは、相対主義でも実存主義でもなく、その狭間の理解困難な道をとる。生物の誕生から原核生物、単細胞、多細胞、神経の発生を、環境とセンサーの相互作用として記述するオートポイエーシス理論を展開。そこから更に生物個体間の相互作用、言語、社会と拡大し、最終的には私たちの認識する世界は何か?の答えに行き着く。

フラクタルな論旨の展開で細胞から社会意識まで一気に駆け昇る旅を終えるとき、身体の細胞一つひとつから世界へとつながる感覚を得ることができ、心身の新たな境地へと到達する。

2019年9月29日

読書状況 読み終わった [2019年9月29日]

中堅ITベンダーであるSCSKによる働き方改革と開発プロセス改革の記録である。

働き方改革については、残業時間半減や有給休暇の取得をトップダウンで指示するとともに、給与の低下や休日がなくなるリスクを防ぐため、金銭的なインセンティブや予備の休日の制度を作るなど、掛け声だけに終わらない工夫がある。実績も、月の平均残業時間が20時間を切るなど、IT業界では考えられない改善がみられる。

開発プロセス改革についても、二社の合併を機に新しい開発標準を作り、開発現場に定着させることや、スキルの見える化、取引先の集約などに取り組んでいる。ITの現場を知る人なら分かるが、まさに言うは易く行うに難しである。SCSKにおいても、すぐに成果が出るわけでなく、5ヵ年の中期計画として実行して、ようやく目途が見えてきたところだ。

往々にして、企業の取り組み紹介は、不都合な真実は隠すものなので、どこまでが現場に浸透しているか鵜呑みにできないが、それでも細かい取り組み内容まで説明してくれている点は、IT業界にとって参考になるだろう。

2019年9月12日

読書状況 読み終わった [2019年9月12日]

科学的

この言葉をつけるだけであらゆる理論は尤もらしくなる。ビジネスの世界でも、特に文系の人を黙らせる、或いは思考停止に持っていくキラーワードだ。

では科学的とは何か?

これは科学哲学の問いだが、この本の著者はホンモノの物理学者。しかもノーベル賞受賞者。彼が言う科学的とは、実際に世界を理解することに貢献するかどうかである。科学哲学では、もっと正確に定義しようとするが、著者は物理学者なので、そんなことはどうでも良い。むしろ、科学哲学の議論を小馬鹿にしている。そうではなく、歴史を振り返り、どうやって理解が進んだか?どんな方法、思考が科学の進歩に役立ったのか?を冷静に分析する。そこには、当時だからしょうがない、といった妥協はない。どんなに今の理論に近かろうと、そこに観測・仮説・検証のプロセスがなければ、ただの空想である。

このような考えのもと、ギリシャ時代からの自然哲学、天文学、数学のさまざまな発見・進歩を丁寧に解説しながら、方法論について辛口コメントを入れる。そして、ついにニュートンによって現代の科学的方法は確立し、そこから科学が大きく発展することになる。

本書は科学的方法がテーマであるが、科学史としても一級である。天文学がどのように地上の運動とつながったのか、数学の果たした役割、自然を説明できた喜び、などなど当時の知的好奇心の熱が伝わってくる。また巻末にはテクニカルノートとして、当時の理論を数学的に説明しており、こちらも高校数学で理解できる範囲で面白い。

2019年9月5日

読書状況 読み終わった [2019年9月5日]

GDPも世界3位に落ちて久しい。失われた10年はいつの間にか30年に近づきつつある。少子高齢化、国の借金、社会保障の破綻…
経済は回復しつつあるという政府に対し、生活者目線では実感はなく、消費を控えるうちに持たない価値観が醸成され、諦めをごまかすかのような低欲望社会に…

こんな日本でも、まだ復活できるのか?

著者は、海外の様々な論文をもとに、今の日本が取るべき施策を主に3点に絞って説明する。

企業の大規模化
最低賃金の向上
働く人への教育

これら施策のミックスにより、日本の生産性が上がる、と様々な相関関係の証拠をもとに主張する。よくある反論に対しても、海外では相関が低い、あるいは逆相関との理由で叩き切る。

なかなか歯切れ良い内容で、施策自体も共感するが、相関係数だけを根拠として繰り返すのが少し違和感がある。著者自身も言っているが、環境が違えば結果も違うはずで、結局は仮説としてやってみるしかない。霞ヶ関も大企業もなかなか変わらないと非難するが、不確実な施策を強く推進するのは大きな組織では難しかろう。

私自身、40過ぎまで我慢を重ねて少しずつ賃金が上がってきたのに、突然、若手の給与が自分と同レベルに底上げされたら、ホント貧乏くじ世代だ…


2019年9月4日

読書状況 読み終わった [2019年9月4日]

私たちが日々行う意思決定は、結局のところ幸せになるためである。それは自分の幸せのこともあるし、家族、他人の幸せのためもあるかもしれない。

私たちは意思決定をする際には、ほぼ間違いなく予想する。行動の結果がどうなるかを予測し、それに対して自分や家族、他人の感情を予想する。これが正しく予想できれば、幸せになれるに違いない。

客観的な結果については、統計や確率でそれなりに精度を上げることができるかもしれない。本書はそこは扱わない。
本書が扱うテーマは、未来にどう感じるかについて、正しく予想するにはどうすればいいか?である。

著者は心理学者として、この問題がいかに難しいか、さまざまな実験結果をもとに説明する。

例えば、そもそも幸せとは何だろうか?私たちは他人が幸せかどうか分かるのか?もっというと、自分の幸せを分かっているのだろうか?

事故や病気、さまざまな災厄で傍から見ると悲惨な状況なのに、本人は幸せだと言う場面…これは嘘をついているのか、おかしくなってしまったのか?それとも周囲が考える幸せが間違いなのか?

このような疑問から始まり、脳の錯覚、虚構、自己防衛、合理化など、私たちの幸せについての概念に揺さぶりをかけてくる。

そして著者が至った結論は、救いがないような…全編を通して、頻繁なジョークが多少の救いかもしれない…

2019年7月11日

読書状況 読み終わった [2019年7月11日]

発達障害というと、何となく周囲とうまくやっていくのに困難を抱えている人、というイメージで、自分の周りにも人間関係がうまくない人は割といて、一方そんな人とうまくやれない自分の方が発達障害?みたいな感覚もあって、そういう私にとって非常に興味深く読むことができた。

大人の発達障害を取り扱った本書が、他の発達障害の本と大きく違うと思うのは、心理療法のアプローチを採っている点である。
一般に、発達障害の治療は、障害のある部分を技能訓練で補うか、困難による心理的ストレスを投薬で抑えるかが主流である。これは、発達障害が脳神経の機能的な障害であり、根本的な治療はできないという考え方である。
本書においても、そこに異を唱えるものではないが、近年の発達障害の増加の裏には、社会の変化に対する心の反応として発現している可能性もあるとしている。そして心理療法によって発達の段階を踏むことで問題解決を図った数多くのケースでは、クライエントとセラピストのリアルなやり取りが記される。発達障害者は自己の確立が弱いという仮説のもと、セラピストの支援のもと自分を他者と分離する体験によって、大きな変化が起きる。短い言葉ながらもセラピストの感動が伝わってくる。

そして後半以降、タブレットやソーシャルメディア、ぼっちなどの社会変化と発達障害についてのいくつかの論考は、感覚に整合するところも多く、発達障害は個人の疫学的な障害という考えでは不十分だと、著者の思惑どおり感じた。

2019年5月25日

読書状況 読み終わった [2019年5月25日]

人は、自分が理解していないことを理解できないらしい。

こういうと、非常に愚かなように聞こえるが、実はこの特質が人類の進歩に非常に役立っている。私たちは、自分の頭の中にある知識と外部の知識、すなわち本やネットの知識から友人の頭の中の知識までも、本能的に区別せずに生きている。確かに実践的には、自分の頭の中だろうが外だろうが、アクセス可能であれば十分である。

また、世の中はますます複雑になってきて、全てを理解することは不可能だし、理解できるものだけを使って生きていくこともできない。理解できないところは信頼して生きていくしかない。

しかしながら、自分が理解できていると錯覚していると問題になることがある。例えば、原発やロケットなど複雑な仕組みについて、理解できていないことを知らずに判断すると大変な事故につながる。政治家の選挙でも、政策の影響を理解しないで投票すると、予期しない結果になるかもしれない。

本書は、人が無知の錯覚に陥りやすいことを、人の社会性という観点から説明する。そして人の知能は個人の中にはなく、社会との関わり方にあるとして、教育や評価のあり方についても考えていく。

自分の知能について謙虚になれるとともに、生きていくうえで何が大切なのかを考える機会になった。

2019年4月15日

読書状況 読み終わった [2019年4月15日]

昨今、○分で読める名著やら100冊を1冊にまとめた本やら、深遠な知識を手軽に知りたいというニーズが高まっているようだ。難解さで有名なカント哲学について、さらっと知りたいと考える人も(私も含め)一定以上いるだろう。

本書は、ジュニア新書ということで中学生向けなのだが、カントの生い立ちからはじまり、純粋理性批判、実践理性批判そして(書名すら知らなかった)判断力批判についてその内容をカントの思想の流れにそって丁寧に解説。大人向けのカント入門も多々ある中、大人が中学生向けのこの本を選ぶのは勇気がいるものの、かみ砕いた説明は非常に分かりやすい。

ちゃんと勉強している人にとってどれくらい正確なのかは分からないが、初めて学ぶ人にはこれくらいがよいかも。

2019年3月31日

読書状況 読み終わった [2019年3月31日]

特異点解消の定理でフィールズ賞を受賞した、日本人数学者の広中平祐による自伝。

数学をとおして、なぜ学ぶのか、どうやって一つのことをやり続けるのか、ものの考え方などについて、筆者なりの考えを若者向けに伝える内容。

非常に同意できる点が多いのだが、当たり前すぎるのと説教臭いのが時代を感じさせる。

2019年3月11日

読書状況 読み終わった [2019年3月11日]

覚えているだろうか?

ほんの10年前までは、日本は世界第2位の経済大国だった。今や中国は日本をはるかに追い越し、世界一の座を耽々と狙っている。

この躍進は、世界の工場として海外からの設備投資が集中し、その後、豊かになった国民による内需が拡大したため、といった経済的な説明もできるのだが、実は、中国政府の長期的な戦略に基づく周到な計画のたまものである。

100年マラソンといわれるこの戦略は、西欧により中国は搾取されてきた雪辱を果たすため、毛沢東時代から秘密裡に実行されてきた。

「孫子」「戦国策」といった中国古典においては、謀略を使い、戦わずして勝つことが美徳とされる。100年マラソンにも、この思想がしっかり息づいている。

私たちは、だまされているのだ。

民主化、自由経済を目指していると信じさせ、技術情報を盗み、着々と武力を整え、気づいたときにはもう手遅れ…

本書はCIA諜報員として長年中国を研究してきた著者による、スパイ小説さながらの見聞録である。本書を読めば、国と国の競争とはどういうことなのか、民主化・自由経済の理想がいかに脆弱なものか、思い知らされる。

2018年10月12日

読書状況 読み終わった [2018年10月12日]

理研(理化学研究所)の脳科学総合研究センターの各研究チームによる最前線のレポート。

全9章からなり、各章それぞれ別の研究チームがか書いているため、記憶、感情、地図、ニューロン、数理さらには親子関係まで非常に多岐にわたっており、脳の世界は奥深い。本書だけで全てがカバーできているわけではなく、「おわりに」に書かれてるように、「むしろ、分かっていないことが山ほどあり、これから何を研究すればよいのかという脳科学の未来について、一緒に考えていただきたかった」。計測技術の進歩により、脳の理解は飛躍的に進んだように思えるが、まだまだゴールは遠いようである。

各章のチームリーダーがなぜその研究をしているのか、それぞれの思い入れが書いているのも魅力的である。

2018年9月19日

読書状況 読み終わった [2018年9月19日]

前著「まず、ルールを破れ」「さあ、才能に目覚めよう」などで「強み」に集中することの大切さを世間に知らしめた著者による「強み」を具体的に活かすための本。

強みは資質、スキル、能力で構成され、このうち資質は生まれつき変わらない。という流れはこれまでの著作と同様。強みを発見するヒントとして、ストレングス・ファインダ―などの自己分析ツールにも言及しているが、本書ではこうしたツールはあまり重視していない。

ストレングス・ファインダーは面白いが必須ではなく、強みは自分の感情が明らかにしてくれると説く。そのため、本書はワークブックになっていて、日々の仕事の中で、何をしているときが気分が高揚したか、などを細かく記録することから始める。

強みを発見した後がさらに大変で、友人に説明したり、上司に面談したりと、本当に実践に移しながら読む人は少ないかもしれない。

完全な実践は私には難しかったが、少しでも自分の強みを活かす仕事を増やし、弱みとなる活動を減らすために、一歩踏み出そうという勇気が出る本だった。

2018年9月3日

読書状況 読み終わった [2018年9月3日]

漫画になったり新装版になったり、今とても話題なので、小学生の娘の夏休みの読書のために購入。

軍国主義の機運が高まる時期に、このような自分の頭で考えることを推奨する内容の本が出版できたことが驚き。時代背景は古いものの、内容は現代にも通じるところが多く、大人が読んで考えさせられることはないかもしれないが、子供に堂々と語れるかというとそうでもない、という絶妙なレベル。夏休みが終わって、娘はまだ読んでいないが、優先的に読ませようと思う。

2018年8月15日

読書状況 読み終わった [2018年8月15日]

米国NIC(国家情報会議)が大統領のために世界の情勢をまとめる「グローバルトレンド」の主筆が、「グローバルトレンド2030」の時に調査した内容をもとに、一般向けに分かりやすく加筆修正した本。国家機関の調査だけあって、政治・経済・国際関係の観点からの記載が多く、テクノロジー視点の未来予測と違って、お堅い場で使うにはちょうど良い。

2018年8月3日

読書状況 読み終わった [2018年8月3日]

テクノロジーの進歩による社会の変化を「拡張」というキーワードで整理。

情報、知能、身体、社会の拡張について、現時点の最先端と書来の予測を丁寧に書いていて、ただの未来予測本と一線を画している。

楽観主義的未来予測なので、懐疑的な人は、本当にそんな変化が起こるのか?と思うかもしれない。しかし筆者は、人類は技術がもたらす変化に対して常に抵抗してきたが、最終的には変化を受け入れてきたという歴史から、将来の変化もきっと受け入れるに違いないという立場である。

最も尖った未来シナリオとして本書を参考に備えをしておこうと思う。

2018年7月17日

読書状況 読み終わった [2018年7月17日]

「全部わかる」というだけあって、IoTの技術要素から運用・セキュリティ、ビジネスの考え方まで一とおりのことは書いている。

技術部分は、あまり詳細に踏み込まず、主要な技術・サービスの特徴を幅広く扱っているため、導入検討する企画担当者にとってちょうど良いレベル。

ただし後半の運用~ビジネスのところは、まだ運用実績やビジネスの成功例が少ないため、根拠がない筆者の主観的意見がかなり入っている。教科書どおり実行して成功するなら苦労はないわけで、もっとギトギトした部分まで記載して欲しかった。

2018年7月11日

読書状況 読み終わった [2018年7月11日]

クリシュナムルティと、彼が創設したインドの学校の子供たちとの対話・講演記録である。子供たちからの質問は素朴なものから挑発的なものまで幅広い。全体的に、答えは不明確で、自分で考えなさい、という調子で一貫しているが、その背後にある思想との整合性が取れている。彼の思想は、言うは安く行うは難しだが、確かにそこに行けば、世界は変わるに違いなく、それが大衆を魅了する所以だろう。

2017年8月20日

読書状況 読み終わった [2017年8月20日]

本書は、マインド・ワンダリングを活用して、ビジネスにおけるイノベーション創出を行うための効果的な訓練や技法を説明したものである。
マインド・ワンダリングとは「意図せず、今やっていることと関係ないことを考えること」。ビジネス的には、集中力を欠き生産性が低いため望ましくない状態。心理的にも、過去を思い出してクヨクヨしたり未来を創造して心配する、ストレスフルな状態とされている。しかし、新しいアイデアを創造するためには、実はこの状態が必要であるという。

アイデアが生まれる場所として、中国で「三上」という言葉がある。これは馬上、枕上、厠上(トイレ)のことであるが、他にも風呂、シャワーなど、アイデアがひらめくのは仕事場以外でぼんやりしている場合が多いかもしれない。そこで浮かんだアイデアをすぐに記録できるように、本書は小さいノート(ロディアがよいらしい)を携帯することを薦める。他にも、観察力を鍛えるためにデッサンのトレーニングを行う、など、日常の中でのヒラメキを活性化することに重点を置く内容である。

デザイン思考は、ワークショップの中でシステマチックに集合知を活性化させてアイデアを生み出すが、本書は一人ひとりの創造性を高めることによりイノベーティブなリーダーを生み出すことを目指している。確かに、日本ではデザイン思考よりもこちらの方が向いているかもしれない。

2017年5月13日

読書状況 読み終わった [2017年5月13日]

大前研一が主宰するセミナー等の内容を書籍化したもの。

ビジネスモデル、テクノロジー、イノベーション、コンシューマ、経済、アジアをテーマとした6の講義からなるが、本書の根底には一貫して、どうすれば日本を立て直すことができるのか?という問題意識がある。

ただし、世界を知るというタイトルにもかかわらず、コンシューマの講義はドメスティックな内容である。国内成長のためにはコンシューマの変化を意識しなければならないが、グローバルの成長という観点からは、国内コンシューマを知ることはプラスにならないのではないか。

という点が気になったが、全体を通じて物事の本質をとらえ、実行可能な打ち手まで提言してくれて、使える本だ。

随所にこの人ならではの皮肉が見られ、人によっては不快かもしれないが、それだけ痛いところを突いているのだろう。

2017年3月31日

読書状況 読み終わった [2017年3月31日]

2012年、リーン・スタートアップが話題になったのと同じ頃、スタートアップがビジネスモデルを考えるため、あるいは既存企業がイノベーションを起こすための手法としてベストセラーになった本。というように書くと、いかにもスタートアップ・ブームに乗っかったようだが、続編・類書が次々に出版され、今でも企業家育成の参考書として利用されており、年数を生き残る名著なのだろう。

この本の貢献は、何と言っても「ビジネスモデルキャンバス」を発明したことだろう。これまでビジネスモデルを考えるには、バリューチェーンや3C、SWOTなどさまざまな定性的分析、収益構造、財務構造の定量的分析を行い、時間をかけて作るものと思われていた。だが市場・技術・経済環境の変化に適応するには、時間をかけずにビジネスモデルの全体像を考える必要がある。

ビジネスモデルキャンバスは、他のイノベーション手法が価値提案の創造にフォーカスする中で、パートナー、インフラ、主要活動、コストなどの足回りにも考慮することを促進し、結果として優位性があり実現性もあるビジネスモデルを生み出すことを支援する、優れたツールである。

キャンバスの説明は中盤までで、そこからは主なビジネスモデルのパターンを提示。ここは、似たような本が多々ある上、無理にキャンバスで表現して中途半端になっている。

後半からは、ビジネスモデルを作る活動、手法をある程度フェーズごとに説明する。ここではプロトタイピングがもっとも重要だ。プロトタイピングというと、簡単なモデルを作って検証するイメージだが、ビジネスモデルのプロトタイピングは、キャンバス上の試行錯誤でもよく、その目的は検証というよりも、別のモデルの探索というものだ。検証ではなく探索。それがデザイン精神だと説く。

私は日々の業務で、PoCとしていろいろ試行することが多いが、探索という心構えがなかったため、最初のアイデアからの改善にとどまっていた。デザイン精神により、最初のアイデアを捨てて全く新しい発想にすばやく移ることで、望ましい変化を起こしていきたい。

2017年3月25日

読書状況 読み終わった [2017年3月25日]

私たちの道徳感情はどこから来ているのか?について、徹底的に論考したもの。本書を思い切り要約すると、
1) 各人が自然と持つ、ある行為に対して共感できるかという適合性の感覚がまず存在し、
2) 適合性感覚に照らして、ある行為についてどんな評価をするべきかという感覚があり、
3) それらを考慮して、自分の行為をどのように律するかという判断基準があり、
4) 社会の大多数の価値観である慣習や流行の影響を受けながら、現在の道徳感情がある
という流れである。その後、世の中の多くの道徳理論に対する批判のおまけがくっついて、膨大なボリュームとなっている。現代の正義論と比べると、著者アダム・スミスの主観が強すぎ、論旨展開も整理されていない印象を受けるが、まだ構造主義も生まれていない時代では、こういう書き方が格調ある文章なのだろう。そのような文章だけに、忍耐強く読むことによって、読了時の達成感はかなり高いものがある。

2017年3月1日

読書状況 読み終わった [2017年3月1日]

日本の競争力を回復するため、イノベーションの必要性が官民あげて叫ばれている。とくにIoT、AIを活用した業界を破壊するイノベーションが米国を中心に生まれていることから、彼らの手法に学べとデザイン思考、リーンスタートアップなどが大流行である。

このような流行は2010年ごろからだろうか。

だが20年以上前に、あのドラッカーがイノベーションについて記したのが本書である。

イノベーションを体系的に行う手段として次のような内容が説明されている。

・まず人口、経済、技術など7つの機会を分析する
 だがイノベーションは理論的な分析であるとともに知覚的な認識であるとして、
・実際に外に出て、見て、問い、聞く
 という左脳と右脳の両方を使うことを強調し、実行する際には
・焦点を絞り単純な構造にする
 なぜならば新しいことは何が起こるのか分からないので単純でないと修正がきかないからだ。

表現は違うが、本質的には現代で言われていることと同じではないか。

本書はさらに、イノベーションのための組織、評価基準、ベンチャーの扱いなど多岐にわたって鋭い論考が述べられ、既存企業がイノベーションをうまく利用するための指針となる。

新しい本もよいが、この古典から学べることの方が多いと感じる。

2016年5月31日

読書状況 読み終わった [2016年5月31日]
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