薄いが熱い

近年の人的資本経営ブームからウェルビーイングという言葉もあちこちのIR、経営方針で目にするようになった。新しい言葉では往々にしてあることだが、ウェルビーイングも使用する人や場面によって意味することが随分違っている。特に経営に関しては、仕事へのモチベーション、会社へのエンゲージメント(これも格好良く言っているが大抵の場合は愛社精神の意で使われているようだ)、多様性、心身の健康、心理的安全性など組織風土など、およそ職場環境に関する問題のすべてがこの言葉に置き換えられているようだ。

本書は、それくらい幅広く便利なウェルビーイングの入門書である。前半は、ウェルビーイングに関する国際的な研究動向、国内のウェルビーイング取組み事例など、ウェルビーイングに少しでも関連することは全部取り上げる。兎に角世の中ウェルビーイングだ、という薄〜い内容。幸せを感じているの社員はパフォーマンスも高い、数値目標をなくして業績が高い企業など、因果関係と相関関係がごちゃごちゃな雑な議論で、兎に角ウェルビーイングの時代だ!という主張…

終盤までこういうのが続いて、個人的には辛い内容だったが、測定や設計論のあたりから急に面白い。薄い本なので中身は何もないが、少なくともウェルビーイングについてちゃんと考える方法があることは理解できた。著者はもともと工学系の研究者なので、本当はこのあたりもちゃん語れるのだろうが、入門書ということで本書の構成になったのだろう。

それくらい間口を広げて著者は何がしたかったのか?あとがき「終わりに」の章にその熱い想いが語られている。前半を飛ばしてでも、これは読むべき。

2024年3月16日

読書状況 読み終わった [2024年3月16日]

失われた30年を経て、これまでの企業の階層型組織構造の弊害は周知のものとなり、一つの会社でコツコツと頑張ることは(少なくとも経済的には)愚かな選択になった。サラリーマンは老いも若きもリスキリングを推奨され、資格取得や語学習得に精を出している。

世の中、多くの自己啓発書が出版されているが、専門知識やパターン化されたプロセスを身につけさせるものがほとんど。それらの知識やパターンを使うコンテキストを発見する能力は、経験を積んて習熟するよう説く本が多い(気がする)。確かに、知識やパターンは具体的で、記憶の対象となるので文章化しやすい。しかし、使う力は抽象的で、本にしづらいのだろう。

本書は、その本にしづらいテーマを「メタ思考」という言葉で表し、例題のトレーニングにより習熟イメージをつかませようと試みている。メタ思考とは、具体的な問題から視点を引き上げ、具体と抽象を行き来してパターンを発見・適用する考え方である。

抽象化能力については、多くのビジネス書で扱われているが、本書で際立つのは抽象化のレベルを重視する点だ。まず具体の細部をしっかり見て、そこから際立った特徴を抽象化する。これが不十分だと、過度な一般化、陳腐なアイデアしか生まれない。

どれくらいのレベルが丁度良いかは、その目的スコープで変わるが、本書の事例も結構参考になる。

2024年2月4日

読書状況 読み終わった [2024年2月4日]

新規顧客の獲得より既存顧客のクロスセル、アップセル、再購入の方が遥かに効率的とは昔から言われてきた。ましてや、国内では長期に渡り消費低迷、人口動態的に将来も需要は増えないと分かっている以上、LTV(ライフタイムバリュー)を重視するしか生き残る道はない。

それほど大事なLTVだが、戦略的に取り組めている企業はほとんど見当たらない。LTVの成功例をちょっと検索すれば、見つかるのはMA、CRMベンダーのマッチポンプ事例はかりだ。

本書について私感で言い切ると、主に大企業向けにデジタルマーケティングの支援をしてきた著者が、本来は大切なLTVをバズワード化する業界の現状に耐えられなくなって、愚痴をぶちまけたプレゼンテーションである。
本書の主張を読むと、企業のLTV向上活動の多くは、ベンダーやエージェントの利益誘導や企業内マーケティング担当の仕事した感にすぎないことが分かる。それは、一言でいうと、数字化しづらいことを避けて取った現実逃避、自己満足をするな!である。

実はこれは、マーケティング領域だけでなく大企業のあらゆるイニシアチブに当てはまる。もちろん、マーケティング領域で本書の指摘、アドバイスは非常に具体的で役立つのだが、品質保証や従業員エンゲージメントなど、違う分野に取り組む企業内担当者にとっても、考え方、姿勢の面で自らを振り返ると良いだろう。

あと文章が読みやすい、というか眼の前で話してくれるようなオンとオフの切り替え、流暢さが特長。脱線が40代に訴求が強いネタなのも合う。ビジネスノウハウ本は基本的に好きではないのだが、この本面白い、この人凄い、と久々に思った。

2023年12月23日

読書状況 読み終わった [2023年12月23日]

今や何かを買うのにスマホで検索、SNS、口コミなどを利用しないことはない。一方でスマホを触っていると最近調べたサイトに関連した広告が出てきて驚いたり、身に覚えのないメールマガジンが大量に送られて辟易したりもよくある。

この裏側では、多くの人がデジタルマーケティングと称して様々な人、お金が動いている。企業のマーケティング担当者は、競合との検索上位やクリック数、登録者数を競い、日々サイトやメール、広告出稿にいそしんでいる。

本書は、このような企業のデジタルマーケティング活動を、意味のない業務をして自己満足に陥っていると批判する。顧客行動を調査し、目的を明確にしてやるべきことに注力すれば、もっと少ないお金と労力で成果つまり購買行動を獲得することができる、というのが本書のエッセンスである。

著者がコンサルタントとして様々な業容の企業のマーケティングを支援した経験から、業態・商品サービス別のデジタルマーケティング戦略のパターンを編み出し、それを惜しげもなく披露。シンプルだが具体的な手法は、顧客の身で考えると非常に説得力がある。

デジタルマーケティングのツールベンダーや広告代理店があれやこれやと薦めてくるものに騙されないように、多くの事業担当が読むと良い。

2023年12月9日

読書状況 読み終わった [2023年12月9日]

近年のAI進歩の最大の要因はディープニューラルネットワークの実装だろう。これが脳の構造を模して開発されていることは周知だが、脳と知能については分かっていないことのほうが多い。脳の中でどうやって知能が実現されているのかを解明すれば、本当に人の知能がコンピューターで実現できるかもしれない。

本書の著者の経歴は独特である。大学卒業後にインテルで勤め、脳科学がやりたくて大学の研究室を志したが断念。そこでモバイルの元祖で有名なパームを起業し、一財産作り、大学に頼らず脳科学の研究所を起ち上げた。凄いとしか言いようがない。

本書は3章からなり、その研究所の成果の中心である、千の脳理論を一般向けに説明するのが第1章。第2章は人工知能の可能性を脳の構造から考察。そして第3章ではこれまでにない高い知能を持つ生き物として、どんな未来を実現すべきかという哲学的な論考。

脳の理論はとても分かりやすく、人工知能についてもさすが専門家という内容。脳構造と意識や倫理を研究する他の本(アントニオ・ダマシオ「意識と脳」、ジョナサン・ハイト「社会はなぜ左と右に分かれるのか」)と併せて読むと、人の頭の中で起こっていることについてかなりシステマチックに理解できる気がする。

第3章は微妙。生きる意味や善悪は、大脳新皮質だけで考えられる課題ではない、と思う。

2023年10月7日

読書状況 読み終わった [2023年10月7日]

書店ポップでオススメされて購入。
擬音語・擬態語をオノマトペというが、日本語はオノマトペが豊富らしい。音と意味のつながりが直接的なものもあれば、多少記号化されたものが連結変形して生まれたものもある。こういう性質から、言語のルーツではないかという研究があるようだ。

また言語の理解するとはどういうことかを考えた記号接地問題は、最近ブームのChatGPTの限界にも言及し、新書ならではのスピード感が楽しめる。

ただ7章が、それまでの緻密な研究説明と違って雑に見えたのが惜しい。

2023年10月7日

読書状況 読み終わった [2023年8月31日]

発達障害、不登校、いじめ、ひきこもり…今の子供たちは親世代とは性質の違うさまざまな問題にさらされている。にも関わらず、子供たちに対面する大人たちの多くは、自分の経験を元に観察、判断、行動をしがちで、子供の心で何が起きているかの理解に基づく支援行動はプロでもなかなかできていない、気がする。

本書は、ベテラン児童精神科医による、さまざまな研究と多くの臨床経験に基づく、子供の心の問題を読み解くガイドである。

特徴は、子供は発達の途上にあるという当たり前のことに基づき、自然発生的バラつきによる差異、経済社会的な変化、特定の環境的要因により、子供の問題が起きるメカニズムを説明している点か。古い考えの大人は、脳の機能的問題、親の育て方の問題、遺伝、など、単純な原因に帰属しがちである。しかしそれでは本人か親を責めるだけで何の解決にもならない。問題の解決には、その子供の発達の程度を考え、混乱や無理をさせないこと、適切な環境を整えるための経済的、社会的支援が必要である。

自分が子供の心について如何に無知だったか、今の子供たちがどんなプレッシャーの中を生きているか、目から鱗が落ちた。

2023年8月17日

読書状況 読み終わった [2023年8月15日]

著者は、「夜と霧」のヴィクトール・フランクルの研究、監訳などで著名なカウンセラー。
本書では、フランクルの心理学、アドラー心理学を引用し、著者独自のスピリチュアルな人生観を丁寧に解説する。対象は40代50代男性のようだ。本来は精神的に成熟するはずなのに、今の中高年は大人になれていない。世の中が便利になりすぎて我慢できなくなったことと、いつまでも現役でいることを礼賛する社会の風潮が原因と断定する。だから高齢者がキレやすいのだ、とまで展開。なかなか挑戦的な論考で、忍耐が必要。
結論としては、人生の課題、使命に目覚めてそれに打ち込むことが、人格の完成、幸福な人生に必要とのこと。ありがち…

2023年7月19日

読書状況 読み終わった [2023年7月19日]

エビデンスに基づく意思決定

コロナ禍で多くのデマ、専門家の私見が飛び交ったことへの反省から、データに基づく客観的判断の重要性に多くの人が気づきはじめた。

本書は、医学と経済学の両方の専門家による、万人に向けたデータによる意思決定のリテラシー向上のための本である。特徴は、EBM(エビデンスに基づく医療・疫学)とEBPM(エビデンスに基づく政策決定)の両方から、手法や事例を説明することで、データの根拠の強さやデータの偏り、データ以外の社会的要素など、共通する本質を理解させようとする点だろう。一般化することで、本書が言わんとするリテラシーが専門家だけのものではない、皆が持つべきものだと伝えることができていると思う。

なお、まえがきに著者自身が書いているのだが、2人で入れ代わり立ち代わり書いているので、意見の繰り返しや順序の違和感などはどうしても気になる。それを楽しんで、というのは難しかった。また、挙がっている事例はとても面白かったが、1節ごとに同じような教訓、説諭が長く展開されていて、忍耐を強いられた。構成、編集に時間をかけたら名著になったろうに、惜しい。

2023年7月15日

読書状況 読み終わった [2023年7月10日]

この2年くらい、経営指標にROICを掲げる企業が目につくようになった。といっても勤務先が言い出したから意識し出しただけかも知れない。ROIC(投下資本利益率)といわれても、日々の数字を追いかける現場では、要はどれだけ効率的に稼ぐかだと認識され、売上高と利益率だけだったものが資産回転率と回収を意識するようにはなるものの、事業の特性によって利益率も回転率も異なるので、結局どれくらいを目指せば良いの?みたいな感じではなかろうか…

本書は、そんな人たちの目線を引き上げ、資本コスト、WACC、ROICなどの基本から、そもそもなぜそれが重要なのか、その応用としてのポートフォリオなど、株主の立場から会社とは何かを考えさせる内容になっている。

正直な感想としては、ソロバン勘定としては理解するものの、中で働く人たち一人ひとりを思うと、ご無体な…と思う。長い視点で見れば社会の成長・発展には間違いなくつながるものの、発展からこぼれる人たちは絶対いて、その人は一時的といっても10年くらいは不遇で、それが30代、40代の10年間だったりしたら、人生としてはかなり苦しいだろうなあ…

こういう本を書いているプロ経営者や投資家には縁のない世界…こういう本を読む人たちにも縁遠いだろうけど…

2023年7月3日

読書状況 読み終わった [2023年7月1日]

ここ数年、特に若者の間でタイパが重要な価値基準になってきた。情報、モノの流通スピードが格段に向上し、早く動いた者が大きな利益を獲得する話も多い。限られた時間を如何に上手く使うかが成功・幸福のカギのように感じるのも不思議ではない。

だがこの価値観には大きな落とし穴がある。時間を上手く使おうとすればするほど、本当に重要なことを成し遂げられなくなるのだ。

本書の原題は
FOUR THOUSAND WEEKS

人生は4000週間
そう言われると多いような少ないような…

著者のねらいは、週にすると実感湧くだろ?だと思うが80年と言われるのとあまり違いを感じない。

それはさておき

本書は、古今東西さまざまな哲学、社会科学、文学などから時間の意識について考察し、時間に対する意識の持ち方で幸福度は大きく変わることを伝えるものである。

確かに一つひとつの考察パーツは、先人の知恵が詰まった珠玉である。だがあまりに拾い食いし過ぎて、全体としての論旨がボヤけているのが気になる。未来への幻想を捨てる、未来の幸福のために行動しない、目的のない時間を持つ、本当に重要なことを絞る、その方が豊かに生きられる、という流れだが、結局どっちなんだ?と思ってしまった…


2023年6月17日

読書状況 読み終わった [2023年6月17日]

「自己肯定感」

ひと昔前に流行った褒めて育てる教育・育児でも
この言葉がよく使われていて、今では重要なマインドセットとして定着した感もある。

一方で世間では褒めて育てるや自己肯定感への批判も増えてきた。本書は、そういう自己肯定感ブームに対して、類似の概念である自己有用感、自己効力感との違いを明示することで、本当の自己肯定感の必要性を解き、さらにその育み方を具体的に述べる。

本書の自己肯定感は、他律的な肯定感を否定していて、本当の危機的状況でも折れない。が実践するのは強い決意と継続が必要。時々読み返す方が良さそうである。

2023年6月17日

読書状況 読み終わった [2023年6月6日]

2022年6月に亡くなった小田嶋隆さんの絶筆。
日経ビジネスで連載していた「ア・ピース・オブ・警句」の世間に阿らない、かつユーモアのある主張が好きで、亡くなったのがとても残念に思う。
本書はエッセイではなく、作者も初めて書いてみたという小説(短編集)である。小田嶋さんから世界がどう見えているかの一端が分かるような分からないような。あとがきで、書いていて楽しかった、もっと早くから書いていたらなあ、というのがジンワリ来る。

2023年6月7日

読書状況 読み終わった [2023年5月28日]

前作に引き続き、イギリスで暮らす日本人ライターの体験記。話の中心は、やっぱり息子さんの成長で、人種、民族、貧富の多様性の中で、しっかり自分の頭で考えているのが相変わらず凄い。本当に素敵な家族で、爽やかな読後感。

2023年6月7日

読書状況 読み終わった [2023年5月17日]

アイデンティティが希薄化する社会で
どうすれば自立した幸せをつかむことができるのか?

本書では、10代の子たちがすぐに行動に移せるように、たった4つのルール
・先に与える
・自分の考えを持つ
・仲間を作る
・多様性を楽しむ
に絞って解説。

本質的には、7つの習慣と同じだが、こちらの方が今風で伝わりやすいかもしれない。

2023年5月3日

読書状況 読み終わった [2023年5月2日]

多様性の価値観の広がりと社会の分断の狭間で、
迷いながらも成長する子供たちの姿に感動を覚える。

この本は、イギリスのブライトン在住の保育士・ライターによる、息子さんの生活を通して体験する多様性に関するさまざまな出来事の記録である。

著者の住む地域では、公営住宅地間の格差、私立と公立の歴然とした差、民族や移民、シングルマザー・ファーザー、同性ペア…創作かと思うほど多くの人々と出来事が登場する。著者自身も日本人として色々な偏見を受けながら、様々な考え方を認め、しなやかな生き方を見せてくれる。その母に育てられた息子さんも、共感力が高く、11歳とは思えない本質的な意見で、逆に母に気づきを与える場面が多々ある。

この素晴らしい親子の経験・語らいに心癒やされながらも、世の中がもう少し寛容になれば良いと願う。

2023年5月3日

読書状況 読み終わった [2023年5月2日]

「地政学的」という表現を最近あちらこちらで目にする。

それは広く国際関係論的な意味だったり、海と山と陸の関係性だったり、時には民族・宗派など社会関係が含まれていることもあり、初心者からすると世界情勢についての予測に信頼性をもたせるおまじないのようにも見えている。

本書は「影のCIA」と厨二のような別称のある民間シンクタンク「ストラトフォー」の元幹部による、地政学的なモノの味方を使った国家の未来予測である。

本書の導入は、第二次世界大戦直後のブレトンウッズ体制が世界にもたらした意味からはじまる。地政学的な観点から見たブレトンウッズ体制とは、国境・通商の安全をアメリカが確保ことで、各国がそれまで必死に行ってきた国防への注力を全て経済活動に向けることができることであるという。

そして前半から中盤ごろまで、国家の文化・経済の発展する地政学的な条件として、通行可能な川、土壌、峡谷、海岸線、海流など自然環境を使って歴史的な説明がつづく。国家はこのような条件によって、資本蓄積ができたところは発展してきたのである。しかしブレトンウッズ体制は、これらの地政学的条件に関わらず、そこにっ加わることで資本蓄積ができるシステムであった。現在の資本主義国家の成長は、これが理由だ。

だが今、アメリカにとってこの体制を維持する必要性が下がってきている。それはシェール資源だったり、人口構成、移民だったり、自然環境的な優位性だったり、さまざまな理由があるが、要はアメリカはもう単体で十分やっていけるのである。

もしアメリカが、世界の地政学的条件を保護する役割を捨てるとどうなるか、本書の後半では、あらためて地理・人口・資源などの条件から各国の未来を予測する。その予測は、目を背けたくなるほど悲惨である。アメリカ以外全部ダメである。救いのないことに、本書では解決方法すら全く書かれていない。信じるも信じないも読者の自由、と切って捨てる。

地政学的な分析の知識を得られる満足度の割に、なんとも後味の悪い本であった。

2023年4月30日

読書状況 読み終わった [2023年4月26日]

ここ10年くらい、企業の中期経営計画において、新事業創出、CVC、イノベーション戦略など、新規事業に関するワードが目立ってきている。

大企業からの新規事業の成功例には、富士フイルムやソニーなど有名なものもあるが、おそらく多くの上場企業では、新規事業やイノベーションを求められ、組織や体制も組まれているものの、進め方、選び方、育て方に型がなく、モヤモヤを抱えているのではないだろうか。

本書は、社内起業のための心構え、新規事業開発のプロセスをまとめたものである。著書は、あのリクルートで新規事業開発を数多く支援し、自らも起業、スタートアップ支援、ベンチャー投資を行っている。

なぜ社内起業、新規事業なのか。著書は、日本では独立起業よりも社内の新規事業の方が、より大きな社会課題を解決できるという。社会や産業の構造、人材的に、大企業の方が、多くのステークホルダーや規制改革を伴う変革を実現しやすいためである。

そのため、より多くの大企業が持続的に新規事業を興せるようにすることが、社会を良くすることに直接つながるが、実際には大企業ほど社内調整に時間がかかり、アイデアは曲げられ、挙げ句潰れるのがパターンである。

本書では、そのような社内の調整、社内関係者の意見にも意味があると認めつつ、新規事業開発を6ステージに分け、それぞれですべきこと、しないことを明示。特に市場規模や当社がやる意義、リスクなどは最初の実証段階までは質問しない、この期間は顧客に仮説を持っていく回数を稼ぐことを最重要とする。仮説をぶつけて修正するサイクルを300回、これが過去の経験から必要な回数という。

とはいうものの、社内でやるには社内会議も大事で、関係役員の質問を本質的でない、分かっていないと切り捨てるのは甘えだとも言う。社内会議とは、つまるところ「重箱の隅をつつく」会議。社内会議ハックとして、周到に準備をして置くことが大切である。

などなど、バランスよく具体的に書かれていて、新規事業を支援する部門や、新規事業プロジェクトに配属された人、社内で新規事業が募集されていて応募しようか迷っている人に大いに参考になりそう。

2023年4月16日

読書状況 読み終わった [2023年4月16日]

この世とあの世の境目のような架空の村で
心象風景の描写により何かを伝えようとしている小説

おそらく死を身近に感じている人には共感や慰めになると思うが、私には気持ち悪いだけで全く分からなかった…

2023年4月1日

読書状況 読み終わった [2023年4月1日]

何をグダグダ書いてるのだ?と最初は思ったが、読めば読むほど染みる。人間は皆、死という運命から逃れられない。平和に暮らしていると忘れがちだが、80歳90歳まで生きられる保証もない。では何のために生きるのか?

本書は、異邦人の著者として有名なカミュによる、哲学、小説評論のエッセイである。短いのだが、他の哲学、小説の知識が前提なところもあって全ての文意を理解するのは難しいが、全体として言いたいことは一貫しているので、分かったような気になれる。人生への態度として共感できたので、手元で時々読み返したい。

2023年3月17日

読書状況 読み終わった [2023年3月17日]

ゴッホとゴーギャン、生前評価されなかった二人の画家は不幸だったのか?

パリの新参オークションハウスに勤める日本人が、ゴッホの死の真相に迫るという少しミステリー要素のある作品。パリ郊外の小麦畑の描写など、まるで眼の前で見ているように鮮やか。またゴッホやゴーギャンの絵画も細部の筆致や色づかいが伝わり感情を揺さぶる。文学なのに、美術を見ているようだ。物語も少し予想を裏切る内容で、リボルバーという不吉なタイトルだったが、愛のある結末にホッとした。

2023年3月17日

読書状況 読み終わった [2023年3月15日]

社会を把握するための数字の見方が参考になる。

著者のエマニュエル・トッドは、歴史人口学者であるが、ソ連崩壊やトランプ当選などの予言で知られる。
多くの社会学が、人の主義や価値観について仮説・推論を展開するのに対し、著者のアプローチは各国の人口動態、家族構成などの統計から、人々の感情を思い浮かべる、経験主義的なものなのが特徴的である。

特に興味深かったのは、統計データの信頼性について、死亡率は嘘がつけないというものだ。著者に言わせれば、物価、GDPなどはサービス経済になってからは何を表すのか分からない。訴訟が増え弁護士の手数料が膨大になることが生産なのだろうか?と言われると確かにその通りと思ってしまう。社会科学においては実験経済学のような、できるだけ科学的にあろうとするアプローチもあるが、そもそもの測るものが間違えていたら結果は意味をなさないことになる…

本人は、数学が得意で哲学が嫌いという道を進んだ結果のように言っていて、随所に現れるフランス哲学の批判、科学的でない社会学の批判は相変わらず面白い。

2023年2月27日

読書状況 読み終わった [2023年2月23日]

世界の捉え方が変わる本

フランスの歴史学者、エマニュエル・トッドへの文藝春秋のインタビュー、対談集。
トランプの当選予想やその保護主義的な政策の評価、逆にネオリベラリズムへの批判は日本の主流の論調と異なるものの、根拠となる歴史観を踏まえると一定の説得力がある。日本向けの話としては、少子高齢化への対策が最優先だと何度も触れられ、日本でも30年前から問題を認識しているのは先見性があったのに、何も手を打たず口だけと手厳しい。
右派左派、格差、福祉の話は価値観の問題でもあり、一致した正解などないのだが、トッドは経験主義的な立場で価値観、倫理に踏み込まないことで論理が明解になっている。それでも本能的な好き嫌いは分かれそう。

2023年2月16日

読書状況 読み終わった [2023年2月16日]

デジタルプロダクトは、もっとユーザーに寄り添える

デジタルサービス、プロダクトが私達の生活にますます浸透し、WEBページやアプリで情報のやり取りをすることが質・量ともに増えている。

ユーザーの立場からサービスの質を向上する取り組みは、ユーザビリティ、UX、CX、カスタマジャーニー、カスタマーサクセスなど、より長期的、俯瞰的に顧客価値を向上する形で拡張してきた。

だがいくら全体として最高の体験がデザインされていても、細部の詰めで価値が半減、あるいは台無しになることもある。例えば外観も内装も味も最高のレストランで、ウェイターが下品なジョークでおもてなしとか。

デジタルプロダクトでは、タイトルやラベル、説明の言葉がその細部にあたる。UIにおけるそうした文字列を「マイクロコピー」といい、それをデザインすることをUXライティングという。

本書は、イスラエルのマイクロコピー専門企業の代表によるUXライティングの文字通り教科書だ。マイクロコピーとは何か、なぜ大切なのか、から、UXライティングの始め方(ボイス&トーン)、具体的なインターフェース場面のヒントと事例まで、一通りの知識とノウハウを披露する。

404エラーページを、ただのエラーでなくブランド価値を伝えエンゲージメントの機会とするなど、知らなかったことも多い。ちなみに、国内企業ホームページで色々な404エラーを出してみたところ、サーバーの素のエラーを出すところは流石になかった(セキュリティ対策として、かもしれない)が、UXの観点からは違いが合って参考になった。

B2CのWEBページやアプリだけでなく、仕事で利用するシステムにおいても、従業員のやる気、エンゲージメントのために適切なマイクロコピーは意味がある。本書の最終章は、そういう複雑なシステムを扱っている。本書でも触れているとおり、投資効果の点で難しいのだけど。

2023年2月5日

読書状況 読み終わった [2023年2月5日]
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