- 誰も教えなくなった、料理きほんのき
- 鈴木登紀子
- 小学館 / 2020年11月9日発売
- 本 / 本
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表題にあるように大正から昭和初期を幼年期、青少年期として過ごした後、専業主婦として家族を支え、その後その料理の腕を買われNHK料理教室に出演したばあばが若い女性に向けて残した家庭料理のいろは。(小言集?)
内容は家庭料理と言いつつ、本格的な日本料理の域に達しており改めて昔の家庭というのは高い調理技術を持ってらっしゃったんだなあと感心する。
私は男性なので、へーと感心しながら読み進められたが、こんな人が姑だと女性は大変だなと思った。
内容は日本料理の伝統に則ったもので、どれも美味しそうで愛情がこもった料理なのがわかる。
まさしく聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥のような本。
結構便利な一覧もあるので、時々参照したい。
2025年3月23日
- 老師と少年 (新潮文庫)
- 南直哉
- 新潮社 / 2009年11月30日発売
- 本 / 本
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極短い物語の中に人生の根本問題を問うた本。
他の著書でも南先生が生涯の問題として挙げている事柄に対して、少年の形で思い悩み、老師の形でなんとか答えを出そうとする。
よくこの短い話の中にエッセンスを詰め込めたものだと驚く。
覚えておきたいなと思ったのは以下2つ。
「あらゆる欲望はこの世界に自分が受け入れられて根拠を求めるものだ。だからそれを断念せよ。」
「何を選んでも良い。その中で生きることを選んだのであれば、その選んだ生が善なるものである事を願う」
「器を作れ。困難な仕事だ。それを何度も磨く。・・・それでも、最後まで生を飲み干せ」
2025年3月23日
- 農家が教えたい 世界一使える野菜の教科書 おいしくて体にいい選び方&食べ方
- しん|野菜を育むプロ
- KADOKAWA / 2024年12月12日発売
- 本 / 本
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農家と栄養のプロが書いた野菜の取説的な本。
よく見る野菜52種について、
・旬
・栄養価
・目利きのポイント
・下ごしらえ
・保存方法
・おすすめの食べ方
が網羅されており、巻頭には野菜の旬の一覧と保存温度帯の一覧が、後半には各症状に効く野菜を栄養学的な側面から教えてくれている。
個人的には確かに使えるいい本だと思う。
季節が進むにつれて読み返したい。
2025年3月20日
- からだにおいしい野菜の便利帳
- 板木利隆
- 高橋書店 / 2008年4月1日発売
- 本 / 本
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スーパーでよく見る野菜や八百屋でも一時期にしか出回らない野菜など多種多様な野菜・果物・キノコ類について解説されている。
その野菜の旬な時期や主な産地に加えて栄養価や簡単な下処理や保存方法も書かれて嬉しい。
またある野菜について書かれているときは、関連して近い種類の野菜についても書いてあるので、より理解が深まる。
時々、トピックとして野菜の流通や農産業ビジネスについて書かれているのも目新しい。
この本があれば、八百屋でよくわからん野菜を買ってきても途方に暮れることは無くなるのではと思う。
ただしあくまで百科事典のようなもので、詳細な調理法が書いてあるわけではないので注意。
2025年3月6日
- 京都ものがたりの道 新装版
- 彬子女王
- 毎日新聞出版 / 2024年7月16日発売
- 本 / 本
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皇族であり歴史の研究者でもある彬子女王様が京都に引っ越されてからの日々を軽やかに綴ったエッセイ。
京都は碁盤目状に道が通っていて、わかりやすい。
そして1000年以上の歴史があるうえにかつて首都であった事から歴史上の人物や出来事にまつわる事柄に事欠かない。
それは街を巡る道にも息づいている。
そんな歴史の研究者としての視点だけでなく、そのお人柄から周囲の京都人に誘われる地元の祭りやイベントの話、更には警護につく警察官とのやりとりなど話が飽きない。
本当にこの人は皇族でありながら地元に人にも分け隔てなく接する親しみやすい人なのだろうとわかる話ばかり。
関西に住んでいて恥ずかしながら京都の伝統行事には触れた事が無かったので、本書を参考に行ってみたいと思った。
なお、警察官とのやりとりでハッとしたのが、
「私は皇族として警察官に命がけで護られている。では警察官が「この人を護れて良かった」と言われる人物であれているだろうか」 という話があった。
警察と皇族に限らず、他の立場でも忘れてはいけない視点だと思った。
2025年3月2日
- 調理科学のなぜ? 楽しい食品成分のふしぎ
- 松本仲子
- 朝日新聞出版 / 2017年5月2日発売
- 本 / 本
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本書は料理のレシピ本というよりは栄養学の観点も交えながら、調理においてなぜその作業をする方が良いのか?を科学的に解説した本。
書いてある内容は下ごしらえや加熱調理の温度選択のような技術にもあるが、そもそもうま味とは何か?腐敗とは何か?のようなことまで答えてくれている。
科学的に説明している分、他のノウハウ本よりは難しさがあるものの、理解できれば応用の範囲は広いと思う。
書き方として、その手順を守った場合と守らなかった場合を実験としても載せているので、腑に落ちやすい。
本書の内容がしっかり頭に入れば、ただレシピをなぞる以外にできなかった料理が、自分で考えて作る料理に変えられると思う。
まさに知は力なりを体現する良い本だった。
2025年3月2日
なんか聞いたことあるかもというような料理のコツを図鑑のようにまとめたもの。
各項目は分断されているので構造的な知識取得は難しいが、アレ?この食材使う時って小ネタあったっけ?
と逆引きしやすくて嬉しい。
またコツだけでなく、科学的になぜそうすべきかも書いてあって良かった。絵も見やすく親しみやすい感じで良い。
保存方法や食べ合わせが書いてあるのは珍しい。
2025年2月23日
- 赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫)
- 彬子女王
- PHP研究所 / 2024年4月3日発売
- 本 / 本
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皇族である彬子女王によるオックスフォード大学への留学、そして博士号取得までの道のりをユーモアあふれるエッセイで書かれている。
文書が生き生きとされていて、芯のある信念と深い教養を感じさせながら、親しみやすくユーモアが溢れる文体で読んでいる読者を引き込んでいく。
皇族という日本において特別な存在でありながら、傲りを全く感じさせず、1人の人間として周囲の人が支え、愛したくなるお方なのだろうと推察された。
読み物としても面白く、多くの人に薦めたくなる本。
2025年2月22日
- からだにおいしい魚の便利帳
- 藤原昌高
- 高橋書店 / 2010年6月1日発売
- 本 / 本
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スーパーや魚屋さんに行って目当ての魚が見つからない。
見たこともない魚や魚介類はあるけれど、どんなものかもわからないから手が出ず、結局魚は諦める。
料理を作る人ならこんな経験はあるのではないでしょうか。
本書は海に囲まれて魚を食べる伝統が深い日本にせっかく住んでいるのだから、もっと魚を食べてほしい!
との願いから書かれた言わば魚の目録。
各魚の歴史や小話が紹介され、代表的な料理も載っている。
ありがたいのは産地や旬も載っている事。
本書だけで魚料理を作るのは難しいが、魚屋に行ってフリーズする事は無くなるだろう。
欲を言えば、下ごしらえや毒や食中毒の有無まで書いてもらえると更に有難かったが、なかなかそこまでは難しいか。
1冊家にあると安心かと。
2025年2月22日
- 料理は知識が9割 (オレンジぺージの学校)
- シェフクリエイト
- オレンジページ / 2025年2月4日発売
- 本 / 本
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料理のレシピではなく、どのように料理を「設計」していくかについて述べた本。
レシピ本を見て美味しい料理が作れても、それはコピーであって基礎が身に付いているわけではない。
基礎を身に付けるには経験のみならず、知識が重要である。
その知識は料理の「美味しい!」の構造を知る事から始まる。
なぜ、その料理はおいしく感じるのか?
逆になぜおいしく感じないのか?
(理系であれば生涯問いかけられ続ける)科学的なぜ?の問いかけが為されていく。
おそらく料理理論の入り口にあたるような本であると思うから、これだけで良いとは言えないと思うものの、気づくことも多く、面白い本だった。
気になったキーワード
・旨さは 旨さの量×味の特徴×風味×食感×温度
・味の特徴は 甘味、酸味、苦味、辛味、渋味
・温度が味の特徴に影響する
・うまみの種類と重ね合わせ
グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、コハク酸
・おいしく感じる塩分濃度は0.7~0.9%
・どこをどの温度にしたいかを意識する。
・料理は理想とする味を決める、どこで「旨味」を出すか考える、調理法を考える。 で考える。
2025年2月15日
- 黒猫の小夜曲 (光文社文庫)
- 知念実希人
- 光文社 / 2018年1月11日発売
- 本 / 本
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前作の死神シリーズを引き継ぐ形で始まる本書。
前作では天の使者は犬になったが、本作では黒猫となる。
天の使者の時は横文字をやたら使う合理的で意識高い系だったが、猫の体に封じられてからはどこか怠惰で猫的になっていく。
とは言え、地上に留まろうとしている魂の未練を解消し、天へ導くために遣わされたので仕事を始める。
各章はバラバラかと思いきや読み進めるうちに全てがつなってくる。
ヒューマンドラマだけでなく、ミステリーの要素もあり面白い。
とてもユーモラスで面白いだけでなく、著者が医師という事もあり人の生き死にの描写はリアルかつ著者の死生観の哲学が度々登場しハッとする。
医師経験のある著者だから描けたと思う。
2025年2月8日
- 苦しくて切ないすべての人たちへ (新潮新書)
- 南直哉
- 新潮社 / 2024年4月17日発売
- 本 / 本
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南先生による坊さんらしくない仏教にまつわるエッセイ。
表題は大層であるが、中身は肩の力を抜いて楽しみながら読める。
著者は読みやすく時々ユーモアある語り口の中に聞く者の心に残り続けるであろう本質的な事柄を織り込むのが秀逸で、心揺さぶられる事が多かった。
今までの著書の内容と重複するような内容でも新鮮な気持ちで読めたし、コロナ禍明けという社会の激変時についても書かれるなど最近の事柄にも書かれているので、今を俯瞰するには良い本だと思う。
2025年1月30日
- ひと目でわかる料理のきほん (SHINSEI料理の教科書シリーズ)
- 川上文代
- 新星出版社 / 2023年5月11日発売
- 本 / 本
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料理に関する本ではあるが、珍しくレシピは載っていない。
その代わり、題名にあるように料理の準備や各調理法の特徴や食材の切り方など、レシピ本では省略されたり意味を語られない暗黙知を余すところなく解説している。
ただレシピ通りにこなすのでなく、料理の構造を知る事や様々に応用が利く基礎を学ぶのにオススメ。
前頁フルカラーで見やすいのも良い。
中身の項目は
【基本のキ】
・調理道具について
・計量方法について
・加減を知る
・食材の保存方法
【調理の基本】
・煮る
・揚げる
・ゆでる
・炊く
・蒸す
・焼く
・炒める
・和える
・調理用語の解説
【味付けの基本】
・和の味付け
・洋の味付け
・中華の味付け
・だしについて
・調味料について
【素材別辞典】
食材の旬・切り方・下処理まで記載
・野菜の切り方
・葉葉類
・根菜類
・果菜類
・キノコ類
・薬味類
・加工食品
・魚介類
・豚肉
・牛肉
・鶏肉
・乾物類
基本的には和食を中心に解説されているが、洋食と中華にも紙面を割いており、粗方カバーされている。
今まで使ったことのない食材や、今までにやったことない食材の使い方にチャレンジしたい人にもオススメの本。
2025年1月24日
- 八月の銀の雪 (新潮文庫)
- 伊与原新
- 新潮社 / 2023年5月29日発売
- 本 / 本
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生きづらさを感じながら生きている主人公たちが自然科学を愛する人との邂逅により心が癒されていく様子を描く短編集。
表題作の作品は就活がうまくいかない大学生と地球物理学を専攻するベトナム人学生との邂逅を。
2作目は周囲から孤立しがちなシングルマザーとクジラの博物学者との出会いを。
3作目は日々疲弊する派遣社員と伝書鳩に魅せられた男との出会いを。
4作目は世間に求められる女性像に疲れた女性と珪藻を使った芸術作品を作る男との出会いを。
5作目は元原発作業員と元気象学者との出会いを。
人の社会から離れて我々が生きている地球の不思議に目を向ける心の豊かさを忘れてはいけないと思う作品でした。
2025年1月23日
- 旬の食材カレンダー (晋遊舎ムック)
- 晋遊舎
- 晋遊舎 / 2024年9月26日発売
- 本 / 本
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各月ごとの旬の食材を見やすい写真付きで紹介しており、見やすくわかりやすい。
またオススメの献立も各月ごとに紹介されており面白い。
しかし細かい調理法などは書いてないので、食材に目星をつけてから違うレシピを参照する方が良いだろう。
2025年1月17日
- 教養としての和食 食文化の歴史から現代の郷土料理まで
- 江原絢子
- 山川出版社 / 2024年4月23日発売
- 本 / 本
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私たちが普段から何気なく食べている和食。
あまりにも身近にありすぎて案外そのルーツや歴史について知る機会は少ない。
と、意外に知らない和食について主に歴史と地理の観点から解説している本。
第1章は歴史について。旧石器時代から平安、戦国、江戸、近代に至るまでを解説。
第2章は食材と調味料。いわゆる一汁三菜の膳を元にどのような献立が考えられてきたかを解説する。
第3章は都道府県別郷土料理。47都道府県すべて書いてあるので楽しい。
第4章は季節の食材と行事食。旬を重視する和食にとって大切なのは季節感覚。24節気と共に食材を紹介してくれる。
写真の見せ方が見にくくてマイナスな部分はあったが、網羅する範囲が多く、幅広く知れる点が魅力。
2025年1月17日
- 暗殺者の矜持 (上) (ハヤカワ文庫NV)
- マーク・グリーニー
- 早川書房 / 2024年12月18日発売
- 本 / 本
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南米を拠点に逃避行生活を続けていたジェントリーと恋人ゾーヤ。2人には束の間の安息の日々が訪れていた。
一方、その頃世界中でAIに権威をもつ著名な研究者やエンジニアが次々に暗殺されるという事件が巻き起こる。
ゾーヤが南米で昔のロシア時代の知人にあるAIエンジニアの保護を持ちかけられたことから2人も世界的な暗殺騒動に巻き込まれていく。
やはりアクションやストーリーの面白さはさすが。
しかし、今回は謎解きめいた部分が多く、過去作のようにどうやったら切り抜けられるのか?
とハラハラする場面は少なかったように思う。
2025年1月11日
- 残月記 (双葉文庫)
- 小田雅久仁
- 双葉社 / 2024年11月13日発売
- 本 / 本
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「月がふりかえる」
「月景石」
「残月記」
の3編が入っている。
いずれも主人公がとんでもない苦難に遭うディストピア小説で、後ろに行くほどに悲惨さが増していく。
ディストピアという事で生命が脅かされる極限状態が出てくるが、そこでは世間一般での価値観でなく、自らのうちから湧き上がる本能(生と性)や愛・尊厳といった事柄と向き合うことになる。
終始、暗い話が続くが色々あるけど安楽な現実社会から、もしこのようなディストピアに落とされたら自分ならどうなるだろうとは夢想する。
明日、死ぬかもしれない、どうにか生きたいと思う縁を考えさせられる小説だった。
特に残月記は架空の疫病を下地としながら見事に世界観が作り上げられている。
2024年12月29日
- 野﨑洋光が教える 美味しい法則
- 野﨑洋光
- 池田書店 / 2016年3月9日発売
- 本 / 本
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和食のプロが書いた、どうやったらおいしくできるかのコツをまとめたもの。
レシピも載っているが、それ以上に各々のトピックについてなぜそれをやるのかを明確に説明している。
著者は考える料理を信条としており、漫然と流されるのでなく、なぜこうなっているのか、他のやり方ではどうかといった科学的、技術的なアプローチが大切と説く。
だから他のレシピだけが載っている本やサイトからは中々得られない普遍的な「法則」が知識として得られる。
もしこの本を読みこんだうえで、それを元に多くの料理経験を得たのであれば、例えば初見の料理やいつもと違う食材相手にもおいしく料理できると思う。
特に個人的にタメになったのは
・臭みや余分な脂を落とす霜降りの技術
・焼く、煮るの時は適切な温度がある
・だしの役割とその簡単な取り方
・味醂、酒、しょうゆ、砂糖、塩、酢の役割と使いどころ
同著者が書いた『和のおかず 決定版』と一緒に和食を作りこんでいけば、実力は上がると思う。
プロの場合は分からないが、日本人として和食の家庭料理はしっかり作れるようになりたいなあと思う人にはレシピ本とセットでオススメできる。
2024年12月29日
- 補給戦 何が勝敗を決定するのか (中公文庫 )
- マーチン・ファンクレフェルト
- 中央公論新社 / 2006年5月23日発売
- 本 / 本
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表題にあるように戦争の結果を決定づける兵站。
その兵站という観点で古くは16世紀の中世戦争から、ナポレオンの戦争、普仏戦争、そして第一次世界大戦、第二次世界大戦まで戦争の推移と共に解説している。
おそらく一般の読者を想定しているわけでなく、戦史研究の歴者学者か軍人を対象に書かれているのだろう。
戦争の推移や背景は事前知識としては付いていけないうえ、細かい数字の羅列が続くうえに、著者の強い主張が所々入ってくるので、中々頭に入ってこない。
しかしながら兵站上の問題が如何に大きな問題を引き起こすかはよく分かった。
結局、兵站上で戦略に影響を及ぼすほど大きな被害を受けなかったのはWW2の連合軍ぐらいっだたようだ。
以下、知って意外だった事。
・中世~近世の戦争では現地略奪が主だった。
・軍が移動していれば補給の問題は起こりにくいが、包囲戦などで止まるとたちま干上がる。
・第一次大戦以前の補給は食料と飼葉程度で弾薬や武器自体は携行で事足りた。
・鉄道時代以前は常に輸送用馬の飼葉問題で兵站が破綻していた。
・近代戦では攻撃部隊の速度に補給が付いていけず、また補給量が多いとたちまち渋滞し機能停止してしまう。
などなど。こう思うと戦う人のみならず現地人にとっても戦争に巻き込まれることは餓死と隣り合わせの地獄な事がわかり、やはり戦争は恐ろしい。
2024年12月26日
- 神様の暇つぶし (文春文庫)
- 千早茜
- 文藝春秋 / 2022年7月6日発売
- 本 / 本
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さわやかでほっこりする作品が多い著者だが、本作は本能的ともいえるような恋愛小説。
主人公は女子大学生。彼女は父親を事故で亡くし、塞ぎこんでいた。そんな鬱屈した日々の中で、父の友人である男が彼女の家を訪ねてくる。
彼女は容姿に恵まれず、体格も男性のようにがっしりしていたので恋愛は出来ないだろうと諦めていたが、その出会いから予想もしない恋の深みに嵌まっていく。
という話。
言うのは少し憚られるが、主人公あまりに面倒くさすぎるし、相手は結局、善人だったのか、ろくでなしなのか良くわからなくなった。
当人達からしたら、生命そのものを振り回される激烈な体験が恋という事になるのだろうが、第3者の冷静な視点から見ると、2人共にどんどんしょうもなくなっているように個人的には感じたので、愛は欲しいが恋は要らないなあと思うようになった。
他の作品にあるような癒しを求めると当てが外れるので注意。恋愛に悩んでいる人ならあるいはいいかも。
あと艶めかしい表現も多いので、苦手な人や人前で読むのも注意した方がよいだろう。
2024年11月29日
- 格闘技「奥義」の科学 わざの真髄 (ブルーバックス)
- 吉福康郎
- 講談社 / 1995年8月10日発売
- 本 / 本
- 購入する
武道や格闘技の熟練者の格闘技術はなぜ一般人のそれと比べて著しく違うのか?
その謎を物理学を駆使して客観的に深堀した本。
眉唾話や武勇伝のような話に流れず、終始一貫して物理学的なメカニズムを解き明かしているのが良かった。
1990年代の格闘技盛んな時期に書かれただけあり、多様な格闘技・武道が登場する。
個人的には少林寺拳法にスポットが当てられる機会が多くて嬉しかった。
後は相撲推しなのか、相撲に関する技術に紙面の多くを割いていた。
技術の内容も打突に限らず、投げ、押し、受けと多岐に渡っていた。
本書は科学的で良いとはいえ、やはり面授面受の武道の世界。
実際の武道の修練の中で何かを掴んだ人が、再発見のために読むには良いだろうが、素人が本書を読んで実践しようとしてもおそらくはうまくいかないだろうとも思った。
個人的には下半身を使って撃て言われる根拠が、全身の運動量を動かすという理論に得心がいった。
2024年11月10日
- 恐山 死者のいる場所 (新潮新書)
- 南直哉
- 新潮社 / 2012年4月17日発売
- 本 / 本
- 購入する
南先生が永平寺から恐山に赴任してからの7年間の間に見て、聞いて、考えたことを一般人への講演としてまとめたもの。
恐山は死者を弔い出会う所として最も有名な地であり、そこは今までの仏教教理が及ばない場所である。
本来、仏教では特に原典に近い禅宗では死後の世界は語らず。とするのが公式見解となる。
しかしながら目の前には、死者に関わらないと崩れ落ちそうな人がやってくる。
この事態にどのような解釈を考えれば良いか。
そんな事を主眼に置きながら、死者の弔いに訪れる人々との交流を通じて、生きることの本質、この世に生を受けたものとして背負い事について深く洞察している。
仏教に興味が無くても、人生について考えたい人におすすめの一冊。
強く心揺さぶられた内容は多すぎて割愛。
2024年11月4日