車輪の下 (岩波文庫)

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山鳥文庫さん 外国文学   読み終わった 

第1章;町随一の秀才、ハンス・ギーベンラート(14歳?)が州の神学校の試験を受ける。他の受験生の受験後の様子から、自分は試験に落ちたと確信していたが、結果は見事第2位で合格。父をはじめ町中の人たちから祝福を受ける。

第2章;神学校への出発をひかえ、ハンスは故郷の自然を満喫しゆっくりと休養にいそしむ。しかしこれからのハイレベルな授業を心配する町の大人たちがおせっかいをはじめる。リベラリストの神父は聖書を使ったギリシャ語を、今の学校の校長からはホメロスを使ったヘブライ語をつめこまれる。だが才能のあるハンスは彼らからの知識をみるみる吸収したうえで、外国語と古典の世界に沈潜していく。一方、キリスト教右派の靴屋のフライクおじさんは勉強漬けのハンスにいい顔を見せず、”男の子に必要なのは運動と聖書”と注文を付ける。

第3章;神学校の寄宿生活が始まる。同じ部屋”ヘラス”の9人の学級たちのこと。とりわけハイルナーのこと。ハイルナーは優秀でとりわけ詩作に秀でている。まわりとは一線を画し自分の世界を確立している。模範生のハンスは自分にないものを持つハイルナーにあこがれを感じており、やがて一番の親友となる。が、自由なハイルナーは必然的に教師たちの目に留まりやすくなる。ある日彼が些細な問題を起こし罰として謹慎させられる。これによって彼はますます孤立していく。教師の目を恐れるハンスもハイルナーと距離を置くようになる。やがてクリスマスシーズンに入り、各々が帰省していく。ハンスも故郷の町に帰る。

第4章;同じ部屋の目立たない生徒ヒンディンガーが事故で溺死する。この突然の死と向き合ったハンスは、勇気をもってハイルナーと仲直りする。ハイルナーの親友にもどったハンスだったが、こんどは教師たちからハイルナーの同類とみなされ敵視され始める。ハイルナーは「やまあらし」紙上で辛辣な警句を弄する。ある日彼は学校から突然脱走、すぐに保護され連れ戻されるが、結果放校となる。ひとり残されたハンスは完全に腑抜け状態となり、教師の質問にもまともに答えられない。教師たちはハンスにあからさまないやがらせさえ始める(「なぜきみはりっぱな親友ハイルナーといっしょにいかなかったのだ?」)。ひどい神経耗弱におちいったハンスは自然、退学の運びとなる。
「教師たちにとっては、天才というものは、教授を尊敬せず、14の歳にタバコをすいはじめ、15で恋をし、16で酒房に行き、禁制の本を読み、大胆な作文を書き、先生たちをときおり嘲笑的に見つめ、…。学校の教師は自分の組に、ひとりの天才を持つより、10人の折り紙付きのとんまを持ちたがるものである。」

第5章;ハンスは失意のうちに故郷の町に帰ってくる。父親でさえ今のハンスを面と向かって叱責することはできない。しかし父を含め、あれほど自分をちやほやしていた町の人々、リベラリストの牧師、校長先生も、今のふがいないハンスを矯正させねばならないと考えている。ハンスは懐かしい自然や街並みの中に自分を埋没させようとする。が、自分はもう幸せな子供時代には戻れないこと、期待された未来もとうに失われてしまったことを痛感する。そして自殺を真剣に考えるようになる。
「校長から父親や教授や助教授にいたるまで、義務に励精する少年指導者たちはいずれもみな、ハンスの中に彼らの願いを妨げる悪い要素、悪く凝り固まったなまけ心を認め、これを押さえて、むりにも正道に連れ戻さねばならないと思った。たぶん例の思いやりのある助教師を除いては、細い少年の顔に浮かぶとほうにくれた微笑の裏に、滅びゆく魂が悩みおぼれようとしておびえながら絶望的に周囲を見回しているのを見るものはなかった。学校と父親や二、三の教師の残酷な名誉心とが、傷つきやすい子どものあどけなく彼らの前にひろげられた魂を、なんのいたわりもなく踏みにじることによって、このもろい美しい少年をここまで連れてきてしまったことを、だれも考えなかった。」

第6章;リンゴ絞りのイベントで美少女エンマと再会する。すでに色気づいているエンマはコケティッシュにハンスに絡む。ハンスはいきなりエンマに夢中になってのぼせ上がる。自分が抑えられないハンスはエンマを訪ねていく(今はエンマは靴屋のフライクおじさんのところに滞在している)と、エンマから求めるようにキスされ、エンマの体を触らされる。ハンスは子供時代を卒業したことを実感する。もはや関心ごとはエンマの体、それだけだ!

第7章;ハンスはフライクおじさんの子供からエンマが田舎の実家に戻ったことを聞かされ、身も世もなく落ち込む。父から働くように言われ、旧友のアウグストもやっている機械工になることに決める。機械工としての生活が始まり、体力がないなりにがんばるが万力とヤスリに指を痛め自信を失う。休みの日に、アウグストたち機械工仲間がいっしょに町に繰り出さないかと誘われる。それを父に告げると、夕食どきには戻ってくるならと小遣いまでくれる。町で彼らは、羽目を外した冗談や、歌や踊り、お菓子にビールにワインと、盛り上がりに盛り上がる。ハンスはしこたま酔っぱらい、夕食時間を過ぎてもう帰らなければならないのにトドメのブランデーを1杯飲まされ、フラフラになりながらひとり店を出る。一方そのころ父は遅くなっても帰ってこないハンスに業を煮やし、笞を掴んで玄関でハンスを待ち構える。
翌日昼間になってやっと、川に浮いたハンスの死体が発見される。
埋葬の日、フライクおじさんが父に言う。「あんたとわしもたぶんあの子のためにいろいろ手抜かりをしてきたんじゃ。そうは思いませんかな?」



この手のドイツ文学、ひさしぶりに読んだが、表現がみずみずしくて、構成ががっしりしてて、思索が深くて、芸術的に洗練されてて、本当に素晴らしかった!

・・・ところで、知人や有名人が自殺したと聞いた時などに、「バカなことをしでかしたなぁ」と呆れたような口調で死者をさげすんだり、「最悪の結果になったなぁ」と自分にも害が及んだみたいに迷惑がる人たちがいる。
なんでそんなこと言えるのか!?
なんでそんなこと言えるのかはここで私は明かさない(私はそんなに気前よくはない)。
ここで見てほしい。ハンスが死んだと知れた時、フライクおじさんの反応はどうだったろう? 彼はハンスの親父さんにこう言っているのだ。「あんたとわしもたぶんあの子のためにいろいろ手抜かりをしてきたんじゃ。そうは思いませんかな?」
ハンスが自殺したのか事故死なのか話の中では明らかにされてはいない。しかし有為の若者が死んだと聞かされたとき、フライクおじさんが言ったようなことをひとり心の中で呟ける人はぼくは立派な人だと思う。そしてそれを声に出して言える人は、偉大な人だと思う・・・。
誰か知らんがドイツの靴屋のおっさん、あんた、イカしてるぜ!!

レビュー投稿日
2018年11月23日
読了日
2018年11月21日
本棚登録日
2018年11月23日
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