夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

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本棚登録 : 2345
レビュー : 273
著者 :
とし長さん ミステリー・サスペンス   読み終わった 

『空飛ぶ馬』に続く「円紫さんと私」シリーズ第2弾となる連作短編。

 日常の謎としてももちろん良い作品ばかりなのですが、今回の短編集の裏テーマは恋愛と”私”の姉妹関係だと思います。

 一話目「朧夜の底」でそのお姉さんが初登場。かなりの美人さんみたいなのですが、一方で”私”はどこかお姉さんに気後れみたいなものを感じているのかな、などとも思わされます。
 そして、”私”のちょっとした恋心もなんだかくすぐったいです。この辺の心理描写の細やかさは北村さんならでは!

 そして、日常の謎としては「本屋さんでなぜか逆向けに並べられた本の謎」がテーマ。情景を想像するとなんだかかわいらしくて、子どもがやっていたら、迷惑だけどほほえましいなあ、なんて思っていたのですが、円紫さんの推理が導き出した犯人像は、何とも狡猾なものでした。

 そして、円紫さんの推理を聞いて、”私”が顔もわからない犯人について思いを巡らすのですが、これが非常に的を得ているように思います。犯罪を犯さない程度に倫理を踏み越える冷徹なその表情……。表面に現れない人の裏の顔を想像させられました。

 二話目「六月の花嫁」は”私”が友人の別荘にいったときの不思議な事件の真相を、円紫さんが推理するもの。

 本格ミステリらしいロジックもあり、聞いてる方が照れくさいような、真相があったりと、とても爽やかな短編です。

 そして表題作の「夜の蝉」”私”の姉の三角関係をめぐってのドラマとなります。

 こちらも一話と同じく人の悪意を感じる作品でもあります。言葉にできない、ふと魔が差したとしか言いようのない悪意も、そしてためらいもなく嘘をつく、明確な悪意も、一つの謎から浮かび上がってきます。事件の構図と悪意の絡ませ方が秀逸です。そして、円紫さんの落語のエピソードも、こうした悪意の理解の一助になっているのもまた巧い。

 そして、姉と”私”の姉妹関係にも注目。私は子供の頃よくお姉さんにいじめられていたらしいのですが、あるときを境にお姉さんはいじめるのをやめたそうです。

 それがラスト、タイトルの意味と共に明らかになります。その瞬間、本を読んでいく中でどこかぎこちなく感じていた、”私”の姉に対する心理描写が、雪解けを迎えたように溶けてなくなってしまうのです。この瞬間が、読んでいてたまらなく愛おしく、そして優しく感じました。

 自分にも妹がいます。男と女の兄妹なので、一様に比べられませんが、自分たち兄妹の子ども時代や現在の関係性にも少し思いをめぐらせてしまいました。

 日常の謎としてももちろん良い出来ですが、”私”をめぐる人間関係に、より面白味と深みが出てきた作品だったと思います。

第44回日本推理作家協会賞
1991年版このミステリーがすごい!2位

レビュー投稿日
2016年2月19日
読了日
2016年2月15日
本棚登録日
2016年2月15日
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