赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

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本棚登録 : 2572
レビュー : 282
著者 :
とし長さん 文芸・文学・群像劇   読み終わった 

 高校時代にいわゆるスケバンとして、不良たちの間で伝説的存在となり、その後大人気漫画家となった女性の生涯……って気になりませんか?そんな人物がこの小説には出てきます。彼女の名前は赤朽葉蹴鞠です。

 上の話だけ聞くと、たとえフィクションでも「そんなやつおれへんやろ~」となると思います。実際、ライトノベルやマンガのキャラ付けとして表層的に書くなら、なんとかなるかもしれません。でも小説として、そして一人のリアルな人間として、その人生を描くのは至難の業だと思います。しかし、それを可能にしたのが桜庭一樹さんなのです。

 なぜ、そんな破天荒な人生を描くことが出来たのか。それは、蹴鞠が生まれ、そして生きた「時代」の空気感、そしてその前後の「時代」も一緒に描ききったからだと思います。

 この小説の特徴は三世代に渡った小説だということ。彼女たちは大きな製鉄会社の奥様という立場になります。

 彼女たちと時代を描くうえで、この製鉄会社というキーワードも効果的に機能します。高度経済成長で大きく成長しながらも、石油危機や公害問題で縮小や、業態の変更を余儀なくされ、オートメショーン化や産業構造の変化で、職人たちも減り、シンボルだった巨大な溶鉱炉も停止、そして工場の取り壊し……。

 赤朽葉家の製鉄は、一つの時代の始まりと終わりを描きます。

 そして、それと呼応するように、時代の若者たちの意識も変化していきます。働けばその分報われると信じられた高度経済成長期。学生運動が盛んになり、若者たちのうねりが仕事以外に向き始めた時代。

 学生運動の熱も冷め、若者たちのうねりのぶつけどころが無くなった時代。そして、バブル崩壊後の失われた20年、希望や生きる目的が見えにくくなった現代。

 こうしたそれぞれの時代と、その時代を生きた若者たちの空気感を描きったからこそ、万葉の時代も、わたしの心情も、そして蹴鞠の不良時代から、漫画家への転身という破天荒な人生も、時代の要請として描き切ることが出来たのだと思います。

 この話の謎の中心となるのは、千里眼として未来予知ができた祖母万葉が視た空飛ぶ男の謎。でも読んでいくうちに、その謎が吹き飛ぶくらい万葉、そして蹴鞠の人生の濃さに夢中になると思います。(蹴鞠の人生が濃すぎるだけで、万葉の生涯もかなり濃くて面白いです!)

 そして、現代、万葉が死の直前につぶやいた「わたしは人を殺した」という言葉に導かれ、現代の語り手、瞳子は赤朽葉家の謎に向き合います。そして謎の先にあるのは、時代の終わりと、そして未来への小さな決意だと思います。

 この小説の最後の文章って、冷静に読むとちょっと青臭いです。しかし、それぞれの時代のうねりと女性の生涯を読み切ったあとならば、この文章が美しく、そして読者を勇気づけてくれるものになっていると思います。

レビュー投稿日
2018年7月31日
読了日
2018年7月24日
本棚登録日
2018年7月24日
5
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