石の肺 僕のアスベスト履歴書 (岩波現代文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (2020年10月16日発売)
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本棚登録 : 32
感想 : 4
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2007年に単行本として、2009年に文庫本として新潮社から出された著者唯一のルポルタージュが岩波現代文庫で蘇りました。この作家の作品は限られたものしか読んでいませんが、電気工時代のアスベスト禍による病気との向き合いが彼の創作の底流にあることは知っていましたし、また東日本大震災についてのスタンスも新聞などに寄稿されたもので読んでいました。圧倒的に自分に起こったことから世界を見ていく私小説家であることに畏敬の念をもっていました。その彼が小説とかエッセイという表現をとらずに自らのアスベスト禍についての取材をいま再び出版するのは意図していないにしてもコロナ禍の時代に召喚されているのだと思いました。禍の時代は、社会の構造の問題を明らかにします。「いのち」か「経済」か、という二者択一を持って、問題を末端に先送るのは、また同じように繰り返されています。本書に出てくる親方を始めとするリアルにまみえることで毎日を送っている人々の存在をリモートワークやニューノーマルという言葉が取りこぼしている感覚を痛みとして覚えました。作者の肺の中に存在する永遠不滅のアスベストのように胸をチクチクさせる本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月11日
読了日 : 2021年2月8日
本棚登録日 : 2021年1月11日

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