巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀 (下) (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2000年5月10日発売)
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感想 : 10
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上巻にも増して下巻も欲望ギューギュー詰めでした。それは正力松太郎の戦後の復権を目指した欲望でもあるし、正力の力を使って自分の夢を実現しようとする彼のまわりの衛星たちの欲望でもあるし、さらには敗戦後に解き放たれた大衆社会そのものの欲望でもありました。新聞とプロ野球とテレビと原子力、そして政治。一見、バラバラに思えますが、それが繋がっているのが、日本の戦後社会の権力のタペストリーなのだと思います。衛星たちと言いましたが、プロ野球の鈴木惣太郎、テレビ開始、原子力導入の柴田秀利、新聞戦争の務台光雄をはじめ、それぞれはそれぞれのビジョンを恒星のよう強い光として放っています。一方、その真ん中の正力はブラックホールのように、それぞれの光を飲み込んでいきます。科学技術振興対策特別委員会で‟核燃料”を‟ガイ燃料”と発言して失笑を買ったエピソードなどを知るにつけ、原子力の導入がどんな社会をつくるのか、とかまったく興味なかったことのでしょう。それは、構想ではなく権利があるのみでした。‟プロ野球の父”‟テレビの父”‟原子力の父”として今なお大正力として伝えられる男の欲望には未来像はなく、ただ産ませるだけ、いや産ませてもいないものであり、その空っぽさが逆に恐ろしくなりました。恒星と衛星の比喩を持ち出しましたが、本書には書かれていませんが、本当の恒星はアメリカで、正力はその衛星だったのでは?とも思いました。巣鴨時代と公職追放解除の深掘りもまだまだ光が当てられるのかもしれません。まあ、「巨怪伝」上下巻で、相当に胸やけしていますが…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年1月22日
読了日 : 2022年1月22日
本棚登録日 : 2021年9月11日

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