二極化した格差社会、というのが世界的の共通現象になっている今、中間層の消滅が民主主義に大きな影響を与えていると思います。たまたま手にした本書は日本の戦後高度経済成長時代に団地という舞台で「総中流」という意識を育んでいた様子をデータを基に論じています。書かれていることはびっくりするようなことではなく、なんとなくその時代を知るものにとっては体験的に知っていたようなことですが、新しいのはその分析手法です。1965年に実施された「団地居住者生活実態調査」というデータを復元し、最新の手法で分析し直していることに驚きを感じました。これから「データ考古学」(まあ、昭和だと考現学かもしれませんが…)みたいな分野が活性化するかもしれません。「戦後の国家再建プロジェクトのなかで新しい中間層の理念を具体化したものとして団地が構想した」(P145)という論考は、「世界で最も成功した社会主義国 日本」という言い方に繋がると思いました。続けて書かれる「総中流社会の本質とは、格差が存在しないことではない。同じ方向に向かって進む一つの「群れ」が想像され、内部での比較と模倣がおこなわれることのほうが本質的なのである。」という文章は非常に印象深いです。そういう意味では一億総中流社会において、団地という舞台と共に大きな役割を果たしたのはテレビというイメージ共有装置の存在かもしれません。そして、昨今の中流崩壊という現象は、テレビ文化の凋落、つまりデジタルによるフィルター・バブルの生成ということとシンクロしているのかもしれません。
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- 感想投稿日 : 2020年2月16日
- 読了日 : 2020年2月6日
- 本棚登録日 : 2020年2月6日
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