逆説の日本史 13 近世展開編 (小学館文庫 い 1-23)

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  • 小学館 (2010年9月7日発売)
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徳川幕府の初期には何をしていたか、
それはどういう理由によるためか、ということを
読み解いていく。

鎖国とキリシタン禁制、大名改易と浪人対策、
茶の湯の変質、演劇の変質、儒学の日本的変容、
武断政治から文治政治への転換と、幅広く語られる。

著者は常々「狭い時代だけを見ているから歴史学は
おかしなことになる」と言っているし、
あわせて「世界史の同時代も見なくてはならない」とも
力説している。
さらに、この巻などでは特徴的なのだが、著者は文化面に
ついても実に広範に自説を展開している。
これもまさに、武力闘争、政治、経済、文化は不可分な関係にあり、
どれかだけを取り出して論じても全体構造を見誤ると
見抜いているためであろう。
それが、この逆説の日本史シリーズの見事な説得力の根底にある。
(冗長のような話も多いけど、それもまた魅力だろう・笑)

この巻で面白いのは、徳川綱吉の政治手腕への評価である。
私も学校の授業か、あるいは子供向けの歴史本かなにかでは
「生類憐みの令で民衆は苦しんだ」というようなことを
刷り込まれた覚えがあり、綱吉は無能な将軍なのかと思っていたが
著者によれば、まったく反対の評価だという。

名君と称される徳川光圀でさえ、「武士の誇り」を損ねる
わけにはいかないと思い、非人を試し切りにしていた。
今の感覚からすると「なんと残酷な」と思うが、
当時の身分社会、および武士社会を考えれば、なんらおかしな
ことではなかったのである。
江戸時代に入り、大名どうしの戦争はなくなっていたものの、
別に武断主義がなくなったわけではなかった。
それを名実ともに終わらせたのが綱吉であり、その30年間の
統治の間にそれを根付かせ、江戸時代の太平の基本を固めたと
いうことができる。

その綱吉の行動原理には、儒教と仏教を、「日本化して」受け入れた
という背景がある。
親を守ることが絶対という儒教そのものでもなければ、
仏のもとには平等であるという仏教そのものでもなく、
徳治主義的なモノはありつつ、自然信仰的なモノもありつつ、という
まさにこれまで続いてきた「作り変え」をここでも発揮し、
それをうまいこと政治として実現したのが綱吉といえるのだろう。

「将軍のいらない合議システム」
これは明治維新国家で、天皇が主権者でありつつも、政策決定権はなかった
のと同じだ。
日本はずっと、そういうのが馴染むらしい。

日本社会は出る杭を打つと昨今よく言ったりもするが、
少なくとも聖徳太子の時代からそうだったのだから、
これはいかんともしがたいねぇ…(笑)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史(世界史/文明史/人類史)
感想投稿日 : 2012年10月14日
読了日 : 2012年10月14日
本棚登録日 : 2012年10月14日

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