歴史主義の貧困: 社会科学の方法と実践

  • 中央公論新社 (1961年5月1日発売)
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Historicism(理論歴史学、とでも言うのが一番ちょうどいいのだろうか)を
論理的に打ち崩していくポパーの傑作。

正直、僕もポパーをちゃんと読むのが初めてというのもあるし
1回だけではどこまで理解できているかというと全然であるが
しかしそれでもなお本書の面白さはよくわかった。

Historicismの反自然主義的主張、および自然主義的主張の立場を
わざわざ一度整理してから、
それぞれに対しての批判を展開する。
このスキのなさが、ポパーの「批判思考の鋭さ」に繋がっている
気がする。

自然科学的な立ち位置を放棄したような「人文的」とでも言うべき
歴史思想をポパーは厳しく批判するとあわせて、
科学を「好き勝手に利用して説明をつける」いわばマルクスに代表される
社会主義的な歴史学にもまったく容赦はない。

じゃあ、ポパーは何ならいいんだ、と思っているのかというと、
別に何ならいいか、ということはほとんど書いていない(笑)。
要するに、筋道の立った批判(何ではないか)が大事だと
たぶんポパーは考えていたのではないかと思う。

未来を「確実性をもって予測できる」という妄想を、少なくとも
科学の名をもって扱おうとすることは、
ポパーは断じて許さない。
それは、まさにそれが社会主義の温床ともいうべき、そして数多くの
人々の不幸や死をもたらした原動因だと思っているからだろう。

しかしポパー自身がよくわかっているように、
人間は生物としての仕組みなのかと思うが、
そういうものを好む(人がけっこういいる)。

そういう連中に対しての批判のための武器を提供する。
多様性ある社会、未来なんて予測できないけれど、
自由かつ多様であることこそがそんな社会における重要な風土であると
考えるポパーにとっては、それがとても大事なのだろう。

哲学というと、基本的に何を言っているのかよくわからない
(難しい言葉を、勝手な解釈でいじくりまわして、
 誰も入ってこれない世界を作り上げてインテリぶっている連中の遊び)
という印象が、正直僕にもけっこうあるのだが(笑)、
ポパーの思想、表現は、そんなことはなくて、
ちゃんと読めばそれなりに理解できるような明快さがある、と思う。

もっとポパーの著書を読まねばならないと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学史/科学哲学/哲学
感想投稿日 : 2012年8月7日
読了日 : 2012年8月7日
本棚登録日 : 2012年8月7日

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