本書の著者、スティーヴン・ストロガッツ氏は高校卒業後も高校時代の数学教師と文通を続けてきました。
「数学のことをメインにし、個人的なことは余り触れないと言うルールがある」との著者の思い込みに釣られるかのように、時に途絶えがちに、それどころか返事すらもしない時も含みながらも30年間も続いてきた数学中心の文通。
これに対する著者の妻の「へぇ、男のやることだわね。」との言葉を切っ掛けに、今までの30年を見つめなおし執筆されたのが本書です。
大学入学早々に大学数学の難解さに直面した著者の不安を始めとし、その後の職業人生や結婚、そして離婚、愛する人の死等、30年間に及ぶそれぞれの人生に触れつつ、当時の手紙の内容を紹介していくと言うスタイルを採用しています。
本書に紹介されている手紙では数学的な意見のやり取りが活発に行われており、大学1年程度の数学素養がなければこれをきちんと理解するのはちょっと手間かも知れません。
しかし、訳者の後書きで紹介されている俳優、アラン・アルダの「これは本当に並々ならぬ本だ。言葉の本当の意味でね。だって、数学と感情がこんなふうに混じり合うなんてこと、並の本では起こらないよ。」「(数学部分は)意味不明なフランス語かギリシア語と思えばよい」との言葉にあるように、数式を見れば頭痛がしてくるという方でも、内容は理解出来ずともこれを通して2人の心を感じることが出来るのではないでしょうか。
著者は他に、"同期"をテーマにしたポピュラーサイエンス「SYNC」の著者でもあり、文筆の腕の確かさは折り紙つきです。
本書でもそれは遺憾なく発揮されており、自らの、そしてかつての恩師、今の友人のそれぞれの過去に思いを馳せる、しっとりとした落ち着きのある本となっています。
数学部分に挑戦をするのも良し。
著者の回想に慰めを感じ、満たされるのも良し。
読者自身の最も必要とされるものが手に入る一冊ではないかと思います。
心を満たしたい方にお勧めです。
- 感想投稿日 : 2013年1月27日
- 読了日 : 2013年1月27日
- 本棚登録日 : 2013年1月27日
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