誠実な詐欺師 (ちくま文庫 や 29-2)

  • 筑摩書房 (2006年7月1日発売)
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感想 : 81
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飯能市にあるトーベヤンソン あけぼの子どもの森に行った。キノコの家、鱗のある家など、川と森の佇まいがいい。そのことから、トーベヤンソンの本を読みはじめた。フィンランドのムーミン物語の作者として有名である。フィンランドのイメージは、サンタクロース、オーロラ、サウナなどである。フィンランドは3年連続で、2020年幸福度1位である。日本はなんと62位。
老いた女性画家アンナ、従順な犬を従えた姉カトリ、寡黙な弟マッツの物語。
海が近くにある雪深い寒村。ウサギの顔のような表情をしたウサギ屋敷に住む老いた独り身の画家アンナ。人付き合いもあまりせず、ファンレターがたくさん届く画家で、精密に森の土を描き、その中にウサギの絵を書き込む。食べるものや郵便を届けてくれる人たちがいるので、あまり外に出ない。
カトリは、飼っている犬の目が黄色で、彼女の目の色も黄色だった。野生に生きる力を持っている。数字に強く、純文学を読み知性的である。交渉力もあり、村の人の困った時に相談に乗っている。誠実な人間として評価されているが、村の人たちとは距離感がある。弟マッツは、寡黙な少年で、姉カトリは、なんとかボートを贈ってやりたいと思っている。カトリは、老画家のアンナに手伝いをして、泥棒の真似をして、ひとりであることを怖がらせる。アンナは周りの人からは、独り住まいはよくない、カトリと住みなさいと忠告を受け、カトリ姉弟といっしょに住むことを決める。
カトリは、家の中を片付け、冷蔵庫を片付け、整理整頓をして、次第にお金の管理もするようになる。アンナの収入を増やす中で、その増えた中から、マッツにボートを買うお金を確保することを始めた。アンナは、ひとりであることに慣れているので、カトリの足音や整理しすぎることに不満を募らせていく。そして、アンナは、弟マッツに冒険小説を進めたり、カトリの犬を調教する。
アンナ、カトリ、マッツの3人の関係がくづれていく。犬がカトリとアンナの主人を持つことで、変化し野生を取り戻して、吠え続ける。そして、ボートがやっと手に入るが。
アンナは多分老いたトーベヤンソン自身であり、またカトリは若い頃のトーベヤンソンなのだろう。
二人の私が同居することで、化学的な変化が少しづつ起こっている。厳しい自然の中で、孤独でありながら、自立して生きていこうとする姿勢が屹立した人間を描き出す。
誠実であろうとして誠実とみなされない「私」を描き出そうとする。厳しい自然の中でたくましく生きている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 家族
感想投稿日 : 2020年9月7日
読了日 : 2020年9月7日
本棚登録日 : 2020年9月7日

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