小説のようなエッセイ集。
煙草一本吸う間に読めてしまう長さの短編が連なります。各話の中に、「そういえば」と言ったよう小さな話が、連鎖しながら繋がっている。唐突に思える思考の飛躍も、読み終わると一人の人の吐息を感じさせる。
なんてことはない、からこそ素敵。のんびりと、他人の個人的などうでもいい話を聞くことなんて、最近してないからかもしれないけど。
沢木さんは「不思議に思う力」を持っている人。
轡田 隆史さんの著書、「桜は花見のできない人のために咲く」を読んだときに、あぁ大事にすべきだな・・・と思った感覚を持っている人。そういう人のエッセイに出会うと、自分の人生における意識の空白が自覚されて、痛気持ちいい。で、この一冊もそういう一冊。
彼にとって「記憶」は、頭の奥から引っ張り出してきて懐かしむものではなくて、身体の中を川のようにめぐりながら、常に「今」の自分と共にあるんじゃないかな。
そのたゆたうような思考の流れが持つ深さと淀みなさが、うらやましい。
これまで何冊か沢木作品を読んできて思ったことですが、
堀江敏幸が書くものに対する私の感情が憧れを含んだ恋心だとしたら、沢木耕太郎の著書へのそれは、反抗期を終えた子供が父親に抱く、素直になれない愛情のようなものじゃないかと。
好きって素直に言えない。考え方が似ちゃうのが憎たらしく、誇らしく。いつも考えてるわけでもないのに、なぜか絶対的。そんな感じ。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
作家の声、またの名をエッセイ
- 感想投稿日 : 2011年7月14日
- 読了日 : 2011年7月14日
- 本棚登録日 : 2011年7月14日
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