オーストラリアの論理学者グレアム・プリースト(1948-)による論理学の入門書、第2版2017年。
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論理学の入門書というと、古典論理(特に命題論理と一階述語論理)の解説に多くの紙数を割くのが通例であろう。しかし、本書は非古典論理を含め広く「哲学的論理学」の話題を取り上げており、その点が最大の特徴であるといえる。日本ではこの「哲学的論理学」(論理学を用いて哲学上の諸問題を研究する分野)の入門書はまだ少数であり、その意味でも貴重な一冊であるといえる。この本の狙いは「哲学に深く根ざした論理学のルーツを探ることにある」。
著者は矛盾許容論理(paraconsistent logic)や真矛盾主義(dialetheism、真なる矛盾の存在を認める立場)の提唱者として知られており、非古典論理への関心が深い。また彼は『An Introduction to Non-Classical Logic』(2008)という定評のある教科書も執筆している。本書の内容は、彼のこうした関心領域が反映されたものとなっている。
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各章の構成は概ね次の通りある。まず哲学的に興味深い議論(神の存在証明、パスカルの賭けの議論、さまざまなパラドクスなど)を取り上げ、次いでその妥当性を分析するための論理学的な枠組を導入し、最後にその枠組の限界を示す。このように問題が開かれた形で残されているため、読者はその先の思考へと促される。こうした仕掛けも、この入門書の特徴のひとつであろう。なお、章末にはそこで扱われた内容の要点がまとめられている。さらに巻末には、各章のテクニカルな部分の理解を確認するための練習問題と解答が付けられている。
「論理学はたしかにテクニカルな分野である.しかし,そこに生い茂るテクニカルなアイデアや成果の樹林は,哲学の土壌に深く根をおろしている」(p151)。
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各章の主題とそこで取り上げられている話題について、以下に簡単にまとめておく。
第1章 演繹的に妥当な推論について。
第2章 命題論理とその解釈について。真理関数。
第3章 一階述語論理とその解釈について。量化子。神の宇宙論的証明。
第4章 ラッセルの確定記述について。神の存在論的証明。
第5章 自己言及文について。嘘つきのパラドクス。ラッセルのパラドクス。多値論理。
第6章 様相論理とその解釈について。可能世界意味論。
第7章 条件文「ならば」とその解釈について。
第8章 時相論理とその解釈について。マクタガートの時間の非実在性。
第9章 同一性言明を含む論理とその解釈について。ライプニッツの法則。
第10章 ファジー論理とその解釈について。連鎖式のパラドクス(砂山のパラドクス)。
第11章 帰納的に妥当な推論について。確率計算による解釈。条件つき確率。
第12章 帰納的に妥当な推論について。逆確率による解釈。神の目的論的証明(設計論法)。
第13章 帰納的に妥当な推論について。期待値による解釈。パスカルの賭け。合理的意思決定。
第14章 チューリングの停止問題の決定不可能性について。チャーチ=チューリングのテーゼ。
第15章 ゲーデルの第1・第2不完全性定理について。ヒルベルト・プログラム。
- 感想投稿日 : 2020年8月8日
- 読了日 : 2020年8月2日
- 本棚登録日 : 2020年8月8日
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