オーディブルにて。
さすが・・・!と思わず唸ってしまう。いくつかの石をモチーフにそれらにまつわるエピソードを織り交ぜながら展開されていく短編集。とはいえちょっとした短編というにはひとつひとつのインパクトも大きいし、重く、深い内容の話ばかり。

この筆者は他の作品でもそうだった記憶があるけれど、回想シーンがとてもうまく使われていて、あたかも謎解きがされるように話が展開していく。

最後に「現在」に話が戻ってきた時に思わず、ああ、そうだったのか、と驚かされ、張られていた伏線に気が付く仕掛け。そこに至るまでの、繊細で鋭い人間描写、ヒトの持つ醜い感情の動きや矛盾、社会の理不尽なところなどを実にうまく表現していて、思わず「ああ、あるある」と何度も肯いてしまった。

まったく別の話の集まりで、互いに関連性はないにも関わらず、途中でやめられなくてつい、最後の話までむさぼるように進んでしまった。

読んでいてハッピーになるような内容は少ない。でもどこかにいつも、小さな希望がちゃんと隠してあって、決して絶望が結論にはならないのが救い。

でも、ちょっと怖い話が多い。
狂気と紙一重、と思える内容もある。
それが、日常とも紙一重であることが感じられて、また怖い。

永作博美の朗読が、本当に素晴らしかった。
内容を知った後も、もう一度聞きたいくらいだった。

2024年8月13日

読書状況 読み終わった [2024年8月5日]

本の装丁や雑誌のデザインを生業とする主人公の成長物語。印刷のことや文字のことなど、普段何気なく手に取っている本がどうやって作られているかは、意外と知らない。書く人だけでなく、作品として本そのものを作る職人たちのこだわりや時代の変遷などが話題になっていて面白かった。ガンバる若者の奮闘、とも言えるストーリーもなんだか清々しく、読了感の良い1冊だった。

2024年8月7日

読書状況 読み終わった [2024年8月5日]

オーディブルにて。
「いい人」がたくさん出てくる。
ひどいことをする人も出てくるのに、それを受け止める主人公たちの理解の仕方がおおらかで、ああ、こんな風に物事を考えられたらなぁ、と思えてくる。

実は、かなり過酷な運命の下で生きる人が多く登場するし、皆が聖人君主なわけではないし、それぞれに現代的な悩みもある。
みんな、悩んだり、つまづいたり、困ったり、クセもいろいろあるのだけれど、優しく、ゆっくり、着実に生きている感じがして、なんだか読んでいるだけで心が落ち着く。心が落ち着く、と主人公が言う、川の音がこちらにまで聞こえてくるような気がする筆致だった。

この本の登場人物たちのように自然に、誰かのために何かをすることが嬉しいと思って毎日を過ごしていけるとしたら、、、人間らしい幸せって、もしかしたらそういうことなのかもしれないとふと思う。

みんなが自分にできることを持ち寄って、誰かに親切にしようとしているだなんて、文字にするとまるで空想上の理想郷のようだけれど、この本に触れている間は自分にもできそうな気がしてくるから不思議。
「自分はみんなの親切で出来上がっているからそれを今度は誰かに分ける」という発想がとても素敵に聞こえた。

ヨウムのネネの存在がとてもいい。
とても丁寧な取材をしたのであろうことが良く分かる。

あとがきが、また素敵だった。
誠実で、優しくてしなやかに強くて、でもサボったり誰かと話が合わなかったりもする普通の人、、、まるでこの本の登場人物たちのような雰囲気の筆者を想像させる。この筆者と、そしてこの物語の登場人物たちと、出会えて良かった。そう思った。

2024年8月8日

読書状況 読み終わった [2024年7月8日]

山の中の集落へ歩いて行って、人と人との関係を築いて、「おはなし」を聞かせてもらう。
いわゆる民俗学の「フィールドワーク」ということなら、違うセオリーがあるのかもしれないけれど、そうした切り口とはちょっと違う彼女のアプローチだからこそ、切り拓くことができたものがあったのだろうと思う。
さまざまな先人の文献等も踏まえた上で、それでもその場所の空気や、人の歩んできた歴史のようなものを肌で感じ取ってきたことを伝える彼女の文章は、良い意味で生々しく、学問の材料としてだけの素材にはない説得力がある。

似た話、似た歌詞が、違う集落に残っているのは、物語歌、バラッドの世界でもよく見られることだけれど、そうした全体を見渡した時の傾向や相違等だけを論じるのではなく、聞いたひとつひとつ、語ってくれたひとりひとりについて足あとを留めようとするような語り口が印象的だった。

中でも印象的だったのは、教職でも研究者でもないある母親がくれた感想をキッカケに読み解かれる「山なし取り」の解釈。
単なる教訓話ではない、もっとどろどろした、時には人の心の暗いところに踏み込むような力があるのが、民話の特徴であり、魅力なのではないかと思う。

北の、山の言葉で「本当にあったことなんだよ」と念押しされながら語られる物語はそれぞれに、何らかの必然性があるのだろう、という気がする。

ちょっと怖くて目を逸らしたいのに、どうしても目を離せなくなるような惹き付ける力。
多分、筆者の小野和子さんもそういう魅力に憑かれて歩き続けたのではないかとふと思った。

語り継ぐということ、唄い継ぐということ。

人間ならではのその営みは、どちらもよく似ている。
そこに、ヒトだからこその何か、逃れられない業のようなものと一緒に、それらを少しでもうまくやり過ごしていくための知恵が振りかけられているのが、こういう文化なのかもしれない。

面白い。

2024年6月26日

読書状況 読み終わった [2024年6月19日]

オーディブルにて。だんだん、周囲の皆が「成瀬」のペースに巻き込まれ、ファンになってしまうところが面白い。スーパーヒロインであることは間違いないけれど、本人が大真面目でヒロイン然としていないキャラクターであるところが新しい。彼女の「信じた道」は論理的で、時に「空気を読む」ことにかまけて矛盾だらけの現実をバッサリやっつけてくれるようでスッキリする。現実離れしているように思えるところさえも小気味よいし、ああ、物事をこんな風に受け止めて考えられたら、毎日が面白くなるかも?と思えてくる、清涼剤のような一冊。

2024年7月18日

読書状況 読み終わった [2024年6月20日]

大・大・大爆笑。
こんなに笑ったのは久しぶり。
ガマンできないほどの笑いのツボがぎっしり。
決して、電車の中で読まない方がイイ。
「あるある!」の覚え違い、読み間違い、記憶違い、、、大真面目な本人の様子が浮かぶから余計に面白い。何より、イラストのセンスが秀逸。
本好きには本当におススメ。

2024年6月17日

読書状況 読み終わった [2024年6月16日]

オーディブルにて。
本を愛する少年の成長物語。
メルヘン仕様ではあるけれど決して子ども向けというわけではない。

本の持つ力とは、人の気持ちを分かることができるようになることだ、というのは、別の著作でも貫かれている、著者の持論であるのだろう。
筆者もまた本をこよなく愛する人であることが、ひしひしと伝わってくる。

人のことが分かれば、思いやることができるようになる。
名誉やお金や見た目より大事なものがあることに、気付くことができる。
伝わる人はきっといる。諦めちゃいけない。
そんな信念のもと、本を愛する少年が「オトナ」たちにひとつひとつ、反論を繰り出していくのだけれど、「オトナ」だって分かりやすく「悪」であるわけではない。世の中はシンプルな勧善懲悪で解決できるほど簡単ではない。その時、その時で個人の価値観が問われるし、取捨選択を迫られる。

「真実が含まれていると反論しにくくなる」という言葉が重い。

昨今の本の苦境に向き合いながら少年の発する言葉は、ついつい本以外のことまで重ね合わせて我が身を振り返ってしまうような内容が多く、勇気付けられた。

2024年6月6日

読書状況 読み終わった [2024年5月24日]

「病気を診るのではない。人を診ている。」

心の叫びなのかもしれない。
医局の功罪や、組織の歪み。
実に臨場感あふれる描写で引き込まれた。
時に落ち込み、自分に厳しい主人公を応援したくなる。
同時に過酷な労働環境が垣間見えて心配にもなる。
スーパーマンではない現実の医療従事者とそれを支える家族は、きっともっと大変な思いをしているのだろうな、と。

現実には、なかなかこうはいかないだろう、と感じることも多々あるけれど、実際に医師でもある著者からの言葉だと思うと何だかホッとするシーンも多い。
病や、ひいては命との向き合い方を考えさせられる一冊。

2024年7月23日

読書状況 読み終わった [2024年5月20日]

神様のカルテ、前夜とも言うべきストーリー。
医療現場の臨場感ある場面は比較的少ないが、医学生の苦悩や患者の側のドラマにもスポットが当てられた話もあり、今のところシリーズの中でこれが一番、印象に残るものだった。
神様のカルテ、という言葉の何たるかも登場する、
どう生きるか、という問いは、転じていつか、どう死にゆくのか、ということを孕まざるを得ないことを、キッパリと突きつけながらも、読んでいて不思議と明るい気分にさせるものがあるストーリー。

死亡率はみんな、人類1人残らず100%なのだから仕方ない。
「今」に対して前向きに向き合えるチカラがもらえる。そんな言葉が詰まった一冊だった。

2024年7月24日

読書状況 読み終わった [2024年5月16日]

オーディブルにて。
1、2と進んでついに3へ。
病院というある意味特殊な空間の中で起こるさまざまなことを通じて、問われるテーマは、最終的には「どう生きるか」ということのようにも思える。
何度も引用される夏目漱石のフレーズも効果的に使われていて考えさせられる。
登場人物たちはそれぞれ、各々の問題や課題と向き合いながら悩み、答えを出しながら次へ進んでいく。病院とは無関係の隣人たちは素晴らしい脇役で、彼らの台詞にㇵっと気付かされることも多い。

人生における哲学は医療の現場に限らず、どこでも、誰でも自分事になり得るものばかり。

なんとなくあたたかく、励まされ、元気になる一冊。

2024年7月24日

読書状況 読み終わった [2024年5月13日]

オーディブルにて。
スピノザ、同シリーズの1と読み進めて面白かったので2も。
さまざまな人間模様がメインのようでありながら、専門的な、医師ならではの業界の様子や病気のこと、治療のこと、そこにある数々の問題提起などがちりばめられた一冊。
優れた頭脳や知識のある専門職である医師や看護師に強いられている、とんでもないブラックな労働環境も、普段、患者の立場しか知らない身にはとても新鮮。
命を預かる人達の日常がこんな非人間的なものであってはならないと切に思う。
医師だって人間なのに。

このことは、他の職業にだって、当然にあてはまる。
誰もが、いつも、この登場人物のように頑張れるわけじゃない、そんなはずがない。
そうは思いつつも、小説ならではであろう楽しさやユーモア、スーパーマンのような体力と技術は小気味良くて、ついつい手が止まらなくなる一冊だった。

2024年5月28日

読書状況 読み終わった [2024年5月13日]

オーディブルにて。
地域医療の現実と大学病院の医療。
死亡率100%の人間にとって、生きるとはどういうことか、幸せとはどういうことか考えさせられる物語。

古風な言い回しが特徴的。
とぼけたような描写に思わずクスリと笑ってしまうような場面も。

著者は現役の内科医師であるという。
たとえば、余命いくばくもない患者と出会った時に、どう対応すればより良い時間だったと感じてもらえるかを考える。文章を書くことで、人間としてのバランスを取り戻すことができる。
そんな意味のインタビュー記事を読むと、主人公と著者のイメージが重なって見える。
こういう哲学を持った医師と出会えた患者は幸せだろうと思う。
生きることへの向き合い方を考えることは、時に高度な最新医療と同じくらい、人を救うことになるのかもしれない。そんなことを考えさせられた。

2024年5月22日

読書状況 読み終わった [2024年5月6日]

オーディブルにて。
新聞の書評を読んだことがあった一冊。
内視鏡医の専門的な言葉が飛び交う中に、生きるとは、幸せとは、というテーマが流れている。
「神様のカルテ」が話題となり、映画化された著者の新作。

自転車で京都の町を往診する凄腕の医師が主人公。
名医、というのがどういうことか。生きる、ということがどういうことなのか考えさせられる。
誰にもいつかは訪れる死というものと、どう向き合うか。どんな言葉、どんな治療が一番、幸せなのか。

正しいひとつの答えはないけれど、時にある方向を示しヒントをくれるのが哲学というものなのかもしれない。


美しくも暑く、寒く、古く、人間味あふれる京都の街並みの描写は、何十年も住んでいたのではないかと思わせるほどの生々しさ。
これでもかというほど登場する和菓子の銘店、有名な商品の描写も楽しい。テンポが良くて死を扱っているにも関わらず、安心できるあたたかさのような読了間のある一冊。
面白かった。

2024年5月13日

読書状況 読み終わった [2024年5月4日]

オーディブルにて。
病気の子の、でも全然トクベツじゃない、イマドキの子の目線。苦しみも嬉しさも子どもらしさと現代らしい「空気を読む」対応力、友達と出会えた喜び等々が活き活きと描かれていてついつい先へと進んでしまう。
大きな悲劇もドラマティックな大事件もないけれど、彼らを支える人達も含めて、それぞれの場でそれぞれの運命を受入、それぞれが頑張っている様子全部を応援したくなっている自分に気付く。

一緒に入っている短編も良かった。
ラクではないけど自分なりに頑張って行こう。
そう思わせてくれる一冊。

2024年8月8日

読書状況 読み終わった [2024年4月23日]

オーディブルにて。PMS、そしてパニック障害。症状は多岐にわたり、一朝一夕で治るものではなく、周囲の無理解に苦しむ、、、そういう、机上の知識しか持っていない事象が、たとえフィクションであってもこうして文章で表現されると真に迫って明日は我が身という気持ちになる。理解できるようになるというのはおこがましいとしても、少なくとも想像ができるようになる。

ネットで紹介された作者のコメントには「楽しく読んでもらえることが一番だ」とある。ほっとできる一瞬を味わってくださるのなら、明日を待ち遠しいと思っていただけるなら、と。

病は他人事ではない。頭では分かっていても、元気な時にはなかなか想像できない。そういう重いテーマを、それでも絶妙な「そんなことあるわけないじゃん」に至る直前、スレスレのところで「そういうようなことなら、あるかもしれない」と思わせてしまうストーリー仕立てで希望のあるものにしてしまうところが凄い。

安直なハッピーエンドではないけれど、たしかに少し「ほっとできる」チカラのある、優しい物語。

2024年5月15日

読書状況 読み終わった [2024年5月1日]

オーディブルにて。
スカッとするマイペースさ。
ある意味、何でもできるスーパーヒロインぶりは現実離れしているけれど、それを支える努力があることも垣間見えて清々しい最終章だった。

物事は、立場が変われば見え方が変わる。
本人は自信がなくて目立たない人間だと思っていても、主人公「成瀬」に知らず知らず引っ張られ、自分でも意識していなかった能力が飛び出したりする瞬間にワクワクした。そんな彼女を眩しく見る者の目線で語られた章もあり、それぞれにとっての「成瀬」が浮かび上がってくるのだけれど、では当の「成瀬」本人はどうなのか、、、

種明かしというほどの大事件は起こらないし、お涙頂戴の場面があるわけでもない。でもどこか「いつでも精一杯」がテーマになっているような若々しさがあって、こちらまで何だか朗らかになれる気がする。元気がもらえる一冊だった。

2024年4月21日

読書状況 読み終わった [2024年4月18日]

オーディブルにて。以前、新聞の書評で見たことがあったのを思い出して。

さびれた公園のアニマルライド。リカバリー・カバヒコと名付けられたその遊具は、治したい場所を撫でるとご利益があるという。

同じマンションの住人で、立場も環境も違う複数の登場人物が、それぞれの問題を乗り越えていく群像劇。そのところどころで「カバヒコ」が登場し、問題解決の時のちょっとした支えや緒になるという設定。

たとえば、褒められることが原動力となって頑張ることができていた少年が初めて挫折を経験し、天狗になっていた自分の気持ちと向き合うまでのお話。「誰かに勝ちたいからじゃなく自分が頑張りたいから頑張ったんだ」などと言えてしまう、清々しくもカッコいいクラスメートの存在がいい。「褒められなかった時にショックだろうから」と普段からやたらと褒めることをしない、ただ愛するだけだと語る父親の台詞も。「一番になることよりも、頑張ったことが嬉しい」という母親の台詞もあたたかくて、何だかホッとする。他力本願で頭が良くなるわけではないけれど彼は、カバヒコを通じて友人を得て、その台詞に影響を受け、自分と向き合って頑張ろうと思えるチカラを手に入れたことになる。

また、たとえば、不本意ながらも仕事を辞めて、ママ友に嫌われまいと自分を殺し続けるストレスを抱えていた、そんな自分自身にも嫌気が差していた女性が、一歩勇気を出して自分を取り戻し、ちゃんと自分で自分のシアワセを見出せるようになるお話。

たとえば、キライな駅伝に出まいと嘘を吐いてしまった少年が罪の意識に辛い思いをし、そのこと自体に気付いて乗り越えていく物語。気付くキッカケを与える整体師の台詞がイイ。「病気や怪我を経験すると、前と同じ自分には戻らない。新しい自分になれるんだ」。

プレッシャーや周りからの見え方を気にして自分の気持ちに向き合えずに、緊張やストレスが身体に出て来てしまうということは実際にある。それは痛みだったり、耳鳴りだったり、、、不安や恐怖を、脳が「痛いと勘違いする」という説明は、完全に正しいわけではないかもしれないけれど、とても腑に落ちて分かりやすい。

極端な悪人やものすごく不幸な出来事、命に関わるような病などは登場しないけれど、誰もが抱えるササクレやひっかかりのようなものを丁寧に解きほぐすような描写に救われる。実際の人間関係の中ではうまく言葉にして伝えられていないようなことを、登場人物たちが言語化して外へ出してくれ、それによって何かに気付いていくさまを読んでいると、なんだか生きるヒントをもらえているような気になってくる。

作中の、どこにでもいそうな「普通の人」につい、ガンバレ、とエールを送りたくなる時、自分もまた励まされていることに気付く。

2024年4月30日

読書状況 読み終わった [2024年4月8日]

ちょっとコワイ。
でも、思わず笑ってしまう。
私たちは普段、本当に多くの忖度と「暗黙の了解」の中で生きている。
「世間の一般常識」から外れないように一生懸命、空気を読んで、異物を排除すべく群れを作り、自分が排除されないようにしている。
そのことを、思い知らされる。

個性であったり、あるいは脳の仕組みであったり、たぶん、先天的にそういう状況把握が苦手な人は存在するのではないかと思う。現代ではいろいろな病名が付けられたりもするのだろう。
でもそれさえも、「異物」というレッテルのための理由付けのような気もする。

この本の主人公は少なくとも、自分がどういう目で見られているかも察知しているし、それが何故かも理解していて、それでも世間の「普通」に自分をあてはめることが極端に苦手。なんとか自他を納得させようとする奇想天外にも思える解決策が、可笑しくもちょっと哀しい。

何が「正常」であるかは意外と難しい問題だと、じわり、と突き付けられる。

2024年4月18日

読書状況 読み終わった [2024年3月30日]

オーディブルにて。
事実と真実は違う。
リアルな描写に、何度も出てくるこのフレーズや、身近に転がっているとは少々言い難いシチュエーションにもつい納得させられてしまう。
善意の誤解や、分かってもらえないもどかしさ、諦め。
社会の一般的なことから少しでも外れた時の生きづらさのようなものが、突き刺さるような描かれ方をしていて時折、読んでいて苦しくなった。
もっと多様であることを、皆が受け入れられるようになればいいのに。そんな叫びが聞こえてくるような気がする。理不尽ではあるけれど、「許さない」ことができる世間の息苦しさは、結局最後まで解決はしない。

思ったより後味の悪くない結末でホッとしたけれど、現実は、これまた異なるものであることも知っている。
分かってもらえない辛さと、どう折り合いをつけ続けていくか。その葛藤は、誰にとってもテーマであり続けるのかもしれない。

2024年4月2日

読書状況 読み終わった [2024年3月24日]

オーディブルにて。
現実にはなかなか、あり得ないだろう夢物語のような部分もたくさんある。世の中、そんな風にはいかないだろうと言いたくなる設定もたくさんある。
でも、それでもどこか読後感が良いのは、ここに出てくる登場人物全員が、とてもマイペースで、自分を持っていて、そして惜しみなく主人公のことを大好きで、大事にしていることが伝わってくるからなのだろう。
世間一般の常識からしたら「そんなの、アリ?」と思うようなやり方だとしても、それぞれが自分の価値観で、一生懸命に表現した思いが、お互いに、交差したり、離れて行ったり、時に絡まったりもしながら紡がれていく。
こんなにドラマティックでなくても、みんな大なり小なり似た悩みを抱えていて、でもこの登場人物たちほど明るく笑い飛ばせてはいなかったりして。

ああ、これでもいいじゃないか、それでもいいじゃないか、と思えた時に、自分にも、自分を取り巻く環境にも、ちょっと優しくなれる。
そんな風に元気が出る一冊。

2024年4月10日

読書状況 読み終わった [2024年3月18日]

オーディブルにて。

自立することを選ぶ女たちへのエール。
私にはそう読めた。

今となっては古臭い、ステレオタイプな結婚への考え方。女は家にいるべきだという固定観念。そういうものを声高に批判して立ち向かう、これはそういう話ではない。逆に、長い歴史のあるしきたりに巻き取られていきそうになる、その中で感じる違和感や苦しさのようなものを一つ一つ、見て見ぬふりをせずに拾い上げて向き合っていく話ばかりだった。

各章ごとに、それぞれの登場人物にスポットが当てられ、各々の事情や、その選択肢を選び取ることの必然性が自然に納得できるよう、巧い伏線がたくさん張り巡らせてある。それでもなお、私にしてみれば「そんな時代錯誤なヤツは切り捨ててしまえ!」と叫びたくなるようなシーンがいくつもあったのだけれど・・・

幸運にも現実の世界で、私は非常に恵まれていて、ゼロとは言わないがこの本の登場人物たちが苦悩するような酷い女性蔑視に直面したことがない。結婚という古くからある制度の良いところ、悪いところ、親の世代の持つ価値観と自身の感覚とのはざまで苦しむ彼らの悩みには共感できるところが多々あった。
家族も大事。恋人だって大事。そしてやりがいのある仕事ももちろん大切にしたい。できればそれぞれの価値観を理解し合い、両立させたい。

モヤモヤしても、納得いかなくても、怒りや悲しみを覚えても、現実には黙ってやり過ごす術を得る方が早道で、それを選ぶ人も多いのだろうと思う。
この小説の中で小気味よいのは、登場人物の一人一人が、自身の腑に落ちないこととキチンと向き合って、その中身を解明していってくれることだ。

自身の「思い当たるフシ」、ただなんとなく嫌、気に入らない、納得いかない、という思いだったのが、何故、どこがそうなのか、ということを説明できるくらいに解き明かされたような気がして、なんだかスッとする。

小説のように、現実に「ちゃんと話し合う」ことができるとは限らない。できても結果が出るとは限らない。でも少なくとも、自分の中で何に対して拒否反応が起きているのかを自身で理解できるだけでも、対処の可能性がずいぶんと、広がる。ただ泣き寝入りするのではなく、選択肢を並べて、選ぶことだってできるようになる。

そういう意味で、いろんな苦さや希望が詰まった一冊だった。

2024年4月3日

読書状況 読み終わった [2024年3月19日]

オーディブルにて。
同じポッドキャストの配信を聴く、全く違う状況の人たちが、それぞれにそれぞれの生きづらさや悩みと向き合っていく群像劇のような体裁を取っている。
ラストにちょっとした種明かしのようなシーンが登場し、彼らの悩みが実は、根っこは同じであることが浮かび上がったような気持ちになる。

外から見えることと、実際の現実は違う。
それをどう受け入れるか、折り合いをつけていくか、答えはそれぞれに異なるけれど、本当はみんな、誰かに必要とされたいと思っていて、実はそれはお金や分かりやすい評価だけじゃなく、シンプルな感謝や笑顔が最高の報酬である場合もある。
言われてみれば当たり前の、人間が生きて来た歴史の中で当然過ぎて目を止められなくなっているようなモチベーションの原点のようなものを、思い出させてくれるストーリー。

どんな人でも、直接でなくても、誰かのためになっている。だから、アナタはそこにいていいんだ。
究極的にはそういうメッセージなのだろう。
たぶん、現代ではそういうものを見つけにくくなっている。
だから、気付かせてくれるこういうお話に、救われるのかもしれない。

思えば古今東西、人間はそういうことで悩み、傷付き気付いて、それを文学やいろいろなアートにして伝え続けてきたのかもしれない、とふと思う。

極端に不幸な設定は出てこない。
そこらにありそうな、どこにでも居そうな人たちの人生に、肯定的な光を当ててくれる一冊だと思う。

2024年3月3日

読書状況 読み終わった [2024年3月1日]

オーディブルにて。
掛け値なしに面白かった。
運転中の暇つぶしのつもりが、続きが知りたくて、渋滞すれば良いのにと思ってしまったほど。

生きづらさと闘う、若い世代の苦しみが丁寧に、丁寧に描かれていく。島、という閉鎖的な設定は、昔ながらの人付き合いの重苦しさを自然にしているけれど、現代でも、都会でも、思い当たる同じようなことはたくさんある。たとえカタチが異なっても、ヒトはつるんでウワサをするのが好きなイキモノだから。
多勢の枠にはまらない者の味わう気持ちは今も昔も変わらないのだと思う。そういう意味で、ここに描かれる主人公たちの葛藤や悩みは、決して自身と無関係な遠い世界のこととは思えなくて、ついつい感情移入してしまった。

家族とか、ふるさととか、結婚とか、答えのないことにそれぞれ、彼らなりの回答を見出していく様子に心打たれる。自立して自分で生きてゆけることへの渇望、そのための代償、その上でやはり人は人と支え合っていられる方が幸せなのでは、という迷い、その支え合い方は、それぞれがもっと自由に選べたら良いのではないか、という叫びが込められたストーリーに、どんどん引き込まれ、苦労の果て、ついに「自分」を見つけた主人公を心から応援したくなる。

分かりやすく自分のやりたいことを見つけられる人ばかりではないし、ましてやそれで生きていける状態になれるなんて稀なことだと分かっているけれど、それでも、励まされる。

少なくとも、悩み苦しむ主人公たちが、そのそれぞれにひとつずつ、見ぬふりをせずに気付いていく、そのつらさの中身の解析のようなことが、なんだかとても清々しい希望のようで、決してなりふり構わぬハッピーエンドとは言えないラストシーンの後もスッキリした気持ちでいられた。

構成にも工夫があり、思わず最初に戻ってリピートしてしまったほど。


しんどいのは当たり前。
それでも、欲しいものは何か?
思わず、我が身を振り返る。

「星」の価値が分かるようになると、愚痴が減る、かもしれない。
この本に、出会えて良かった。

2024年3月3日

読書状況 読み終わった [2024年2月25日]

オーディブルにて。あちこちで書評を目にするので現物はいかに、と開いてみた。
たしかに真に迫った表現力。
所謂「推し」と括られるようになった文化やビジネスや、ファンの立場の人々の様々な心境や関わり方や、がうまく網羅されている、気がする。思い当たることや共感できる鋭い描写も多く、ちょっと極端に思える主人公の反応も明日は我が身という気がして、その苦しみが感じられてしまうのがちょっと辛いくらい。
生きることをタイヘンに感じてしまう者の息苦しさ、もがいても届かないもどかしさ、そんの中で「イキテル」と感じることがどういうことなのか考えさせられる。

2024年3月1日

読書状況 読み終わった [2024年2月9日]
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