「おふくろの味、というものを私は信じていない。」
まさか本編ではなく、こんなクールな一行で始まるあとがきにこれほど泣かされるなんて。
今は亡きお母様と料理の思い出を飾り気のない言葉で綴った角田光代さんの静かなのに溢れる思いの丈に、自然と涙がこぼれた。
本編は料理にまつわる15帖からなるオムニバス小説兼レシピ集。
四年間付き合った彼氏にフラれた女性が自分を奮い立たせるために作るラム肉のハーブ焼き。
亡き妻の味を求めて料理教室に通った中年男性がようやくたどり着いた豚柳川。
人目を気にせず好きなものを食べられる時間を謳歌する女性がつくるタイ料理。
拒食症の妹を心配した青年が作ったピザ…。
一編一編はとても短くてサラリとしているのだけど、料理をするということは、ただ単に食べるための支度というのではなく、自分の気持ちや誰かへの思いに向き合ったり、大切な記憶といった、個々人の人生に関わるものでもあるんだなあ、ということを、思い起こさせてくれる。
そして、最後の〆は角田さんの思いが伝わる、あとがき。
「どんなにかなしいことがあっても、日々は続いていく。日々が続いていくかぎり、私たちはごはんを食べなくてはならない。」
「けれど私の個人的体験では、料理というものは、手間を超えた何かだった。食べることを超えた何かだった。」
端的で静かなのに、どの言葉もとても胸に染みる。
いつか、私も角田さんが体験した、さびしさと再生を体験するんだろうな、としみじみ思った。
そして、年末には是非とも、母がお手製のつみれの味噌汁を食べたいとも思った。
寂しい気持ちと優しい気持ちが一緒に胸に押し寄せてくるけど、なんだか少し元気になれるというか、心落ち着く作品集でした。
- 感想投稿日 : 2018年10月26日
- 読了日 : 2018年10月26日
- 本棚登録日 : 2018年10月26日
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