お伽草紙 (新潮文庫)

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本棚登録 : 2119
レビュー : 160
著者 :
hotaruさん その他   読み終わった 

太宰治による日本昔話のパロディ小説集。各元ネタは、「こぶ取り爺さん」、「浦島太郎」、「かちかち山」、「舌切り雀」の4編。
娯楽性が高いのに、各話それぞれに人間の二面性や奥深さを突いていて面白いです。

「瘤取り」
頰の瘤に愛着を感じていたのに鬼に奪われたお爺さんと、瘤を取り除きたかったのに鬼のせいで増えてしまった隣のお爺さん。
性格の違う当事者それぞれが抱えていた不満と孤独、その遠因でもあるそれぞれの家族の対照的な姿が印象的です。明るいお爺さんの家族が無口な無関心気質で、無口で暗いお爺さんの家族が朗らかで皮肉屋って…。太宰も教訓めいて述べていますが、人々の性質の違いとその交わり方によって、一見似たような事態の結末がこうも違ってしまうのかと、ちょっと身につまされる思いのする作品。

「浦島さん」
最終的に玉手箱を開けて老人と化してしまう浦島太郎をして、年月と忘却は救いであると言い切ってしまう太宰の哲学性がなかなかに刺激的な一品。私は晩年に孤独になっても、年月と忘却こそ救いであるなんて言える気はしないけど…。何事も強制せずに無限に許可し、玉手箱を開けるも開けないもすべてを浦島に任せる、あまりにも掴み所のない乙姫は、運命の象徴なのでしょうか?もう少し年齢を重ねてから読み直して味わいたい一作。

「カチカチ山」
うさぎを16歳の少女、たぬきをうさぎに言い寄る37歳中年男性とした設定の妙が活きた作品。うさぎがたぬきを殺してしまう残虐性は、乙女の純粋性の裏返しというのは、予想外の説得力に満ちていました。

「舌切雀」
基本は本家に忠実ですが、こちらのお婆さんは元々はそんなに強欲でもないのに可哀想な扱い。お爺さん、雀ばかりにそんな必死にならず、もうちょっと普段からお婆さんと会話してたら…、と思わずにはいられない。そして、不幸なお婆さんの末路とは対照的に、栄光の中で終わる爺さんの人生…。
昔話にお馴染みの無欲の勝利というよりも、夫婦の溝の怖さや虚しさが際立つお話。

太宰の企画力と筆力で、日本人にはお馴染みの昔話が、ずっと大人向けの奥深いお話になっていて、とても面白い作品集でした。

レビュー投稿日
2017年3月12日
読了日
2017年3月12日
本棚登録日
2017年3月12日
9
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