眠れなくなる 夢十夜 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2016年12月23日発売)
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本棚登録 : 251
感想 : 30
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夏目漱石の幻想怪奇短編「夢十夜」をモチーフとして平成末期の人気作家10名が描いた短編集。どの作品も、あの名フレーズ「こんな夢を見た」から始まる。

とはいえ、明治の漱石とは違い、多くの現代作家にとっては、夢は「夜の眠りの中で見る幻」というよりも「つらい過去や現状に思いを馳せる」ことであるらしい。

心の傷である暗い体験が語られる中に白昼夢のように幾ばくかの幻影が紛れ込む物語は、幻想性は薄く、現実的な陰気さをまとっていて、時に生臭くさえある。
現代小説においては、掴みどころのない夢想よりも、読者の共感が得られそうな虚を少し混ぜた世界をリアルに書く方が「売れる」ことを暗に示されているように感じたのはさすがに偏屈な考え過ぎか。

それでも、本家の作風に近い雰囲気を纏う作品もあって。

北村薫さんの「指」は、「夢十夜」の静謐な文体とは少し違う歯切れ良い感じの文体だけれど、豊富な色彩描写、不可思議さ、荒唐無稽さ、儚さといった、本家の世界観を本当に見事に踏襲した、まさに夢の中の世界。

西加奈子さんの「小鳥」も、様々な色の描写が出てきて、楽しませてくれる。

それから、少し別の切り口ですごく面白かったのは、小路幸也さんの「輝子の恋」。
明言はされてないのだけど、これはおそらく、漱石の別の代表作「こころ」の登場人物が、過去を取り戻すことによって「皆が、幸せな笑顔を見せた」別の世界線の物語。
最後のキーパーソンにはびっくり。
原作では端役のその人でしたが、あ、なるほど…と唸ってしまいました。 
たった数ページで別の世界線を築けてしまう筆力もすごい。

「夢十夜」が好きで、かつ好きな現代作家さんが執筆していたら、手に取ると楽しい作品集だと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月10日
読了日 : 2023年6月10日
本棚登録日 : 2023年6月10日

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