「私は母をなぐったりつねったりしたのではない。愛してなかったのだ。」
「100万回生きたねこ」なとで知られる絵本作家の佐野洋子さんの、時にぎょっとしてしまうほどに率直な言葉で、実母への愛憎と罪悪感、そして、贖罪という、家族だからこその割り切れない関係を綴ったエッセイ集。
終戦後、五人の幼い子供を連れて中国から引き上げ、三人の幼い息子を亡くし、夫の死後は、戦後に生まれた子供を含め、完璧なまでの家事と仕事で、四人の子を大学まで行かせた母。
その実、ヒステリックで身勝手で、子供を支配下に置く毒親的側面を確かに持ち、今の時代ならば児童相談所通報案件ではと思うような虐待に近いこともしていた人。
佐野さんは、進学を機に家を出た後、「愛していない」母とは距離を置きながら付き合っていたのに、老いて痴呆の症状が見え始めた母と訳あって一時の同居をして疲弊を覚え、老人ホームへ入れたことを、「金で母を捨てた」と罪悪感で胸をいっぱいにし、そして、長い長い葛藤を経て…。
正直、今の時代を生きる私には、佐野さんの選択は、佐野さんの人生を守るためにも間違ってないし、現実的な選択だった、と思います。
私自身、誰がなんと言おうと、一緒にいないほうがよほど平和で穏やかな均衡を保てる家族は絶対にあると思っているので。
佐野さんも、きっと、それは分かっているのだけど、それでも割り切れない家族の情や、消えない幸福な記憶、そして、最終的に佐野さんが得た「許し」の瞬間まで、余すところなく書ききっています。
読んでいる途中は、気が張っていたのか、けっして泣かなかったのだけど、読み終わって、もう一度冒頭からパラパラとめくって拾い読みしながら全体を把握していたら、私もいつか、佐野さんが体験したようなことを体験し、佐野さんの境地に立つことがあるのだろうかと思い、まとまらない感情が溢れて号泣してしまいました。
両親との関係に少なからずひずみを感じている人は、一度読んでみると、色々と想いを馳せることがあるのでは、思う作品です。
この作品を読んでみて、佐野さんの代表作「100万回生きたねこ」はまさに、人間のあらゆる面を直視して言葉にすることを選んだ佐野さんが描いた作品だなあ、としみじみと思わされました。セットで読むと、より一層奥深さを感じると思います。
- 感想投稿日 : 2017年6月25日
- 読了日 : 2017年6月24日
- 本棚登録日 : 2017年6月24日
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