予告された殺人の記録 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1997年11月28日発売)
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大きさも形も不揃いなモザイクのピースを、わかりやすい外枠や特徴的な部位からはめていくのではなく、まずはど真ん中の破片、次は右下、次は左上…とバラバラに置き続けて観る者の頭を混乱させておいて、最後はその正体も意味も、なんならピースの境目すら溶けてわからなくなってしまっているのにすさまじく吸引力のある見事なグラデーション模様の作品を完成させたような作品。

冷静に眺めるとどう考えてもおかしいのに、あまりに緻密な描写から当然の現実と思い込んでしまいそうになる、マルケスの代名詞「マジックレアリズム」は健在。

本作は実際の迷宮入り事件をモデルにしているのだけど、あまりにリアリティがありすぎたので、事件の真相を知ってるのではと疑われて警察の取り調べを受けたとか…。

物語はいきなり一人の青年がこれから殺されることが明かされてスタートする。そして、犯人たちの名前もすぐ明かされる。
では、犯人探しではなく、トリックや動機を暴くタイプのミステリー小説が始まるのか…と思ったらそうではない。

語られるのは、登場人物たちの奇妙な行動。

犯行直前に殺害の意志を触れ回りながらも誰かが犯行を止めてくれることを期待するような行動をとり続けた犯人たちの姿。
それを目にしながらも結局誰も(悪意なく、決して故意でもなく)殺害を止められなかった町の人々の姿。
事件後に人生が狂った人々の姿。
町中がこれから殺されることを知りながら当の本人は知らなかった被害者青年の姿。
そして、事件の当事者の一人であるはずのとある花嫁の心に事件後芽生えたあまりに異常な愛。
そして、「最期」の瞬間。
多くの人物の異質な行動が交互に入り組みながら語られていきます。

そこで示されているのは、よそ者が持ち込む波紋、旧態然とした名誉の形、差別、偏見、そして、それらに振り回されて揺らいでもろさをさらす共同体の危うさといったもの。

ミステリーであれば最も大事なはずの「真実」は最後まで明かされない。
でもそれが当然で、全く重要ではないと思えてしまうのは、やはりマルケスのマジック。

マルケス自身が最高傑作だと言ったとのことで、たしかによく作り込まれた作品です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2019年7月17日
読了日 : 2019年7月17日
本棚登録日 : 2019年7月17日

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