人間の大地 (光文社古典新訳文庫)

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本棚登録 : 154
レビュー : 11
制作 : 渋谷 豊 
hotaruさん 古典   読み終わった 

静謐で慈愛に満ちているのに、悲哀と悲壮を滲ませる繊細かつ美しい文体で、第二次世界大戦以前の常に危険と隣り合わせだったパイロットとしての壮絶な体験を綴った、「星の王子さま」で知られるパイロットで作家だったサン=テグジュペリ(1900-1944)の手になるルポタージュ要素の強い随筆集。

厳しいスペインの山脈を超えなくてはいけない初フライトを前に感じた高揚感や友人とのやりとり。
険しいアンデスの山やサハラ砂漠に不時着しでそのまま行方不明になったり、植民地の原住民に殺されて戻らなかった幾多の僚友たちのこと。
自身が何もないサハラ砂漠に不時着した時の助かるまでの数日間という、まさに九死に一生を得た過酷な体験。
敵対する植民地の原住民やアルゼンチンの農民との束の間の交流…。
どれもとても印象的です。

けれど、本書の特筆すべき点は、単に体験を書き連ねただけでなく、サン=テグジュペリ自身の思想や世の真理が多分に盛り込まれており、静謐で繊細な記憶の記録集であると共に、ある種の哲学書としての側面を持っていること。

あの有名な名言も本書には登場。
「経験によれば、愛するとは互いに見つめ合うことではない。一緒に同じ方向を見つめることだ」

原書は1939年に刊行されたものですが、それまでにあちこちの雑誌や新聞で発表していた小品を「一種の花束というか穀物の束というか時間や空間を気にせず寄せ集めたようなもの(アンドレ・ジッドの言葉)」ということで、雑多とも言えますが、その分とても多面的で趣に満ちた魅力があります。

とはいえ、このような作品を発表したサン=テグジュペリ自身が1944年の偵察飛行で行方不明になりそのまま帰らぬ人になったという史実を思い起こすと、当時のパイロットという仕事がどれほど危険なものだったか身に迫って来くる心持ちがします。

でも、サン=テグジュペリの代表作「夜間飛行」(1931)も、「星の王子さま」(1943)も、まさに彼の実体験から生まれたんだなと、しみじみ感じる作品ですので、サン=テグジュペリ作品が好きだけどこれはまだ読んでないという人は、読めば理解がさらに深まること間違いなしの作品です。

レビュー投稿日
2019年10月12日
読了日
2019年10月12日
本棚登録日
2019年10月12日
13
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