はたから見たら異質も異質でしょうが、相思相愛な恋愛物語だなーと思いました。
確かに女は貧しい環境から抜け出すために犯罪に手を染めながら金持ち男たちを渡り歩いて最後にはボロボロになっていくような人生を歩み、愚直なまでに一途な平凡男を傷つけて去ることを繰り返していました。
でも、何年離れていても幾度も彼と巡り合って、時には自分から彼を探しだして、つかの間じゃれ合ってから去っていくその40年間分の不安定な姿の見事な描写は、形はおかしくても実は彼女も男のことが好きで、男もただ根拠なく期待して待ち続けていたわけではなく苦しみながらもそれを心のどこかではわかっていたからお互い幸せだったんだろうな、と思えました。作中、女が男に「あなたは私の人生で最良の贈り物よ」とささやくシーンがありますが、あれは冗談でもまやかしでもなく、女の本心だったんだろうな、と。やっていることはひどく、常に寄り添い助け合う一般的で平和な家庭を築くことはなかった彼らだけど、これも一つの愛ですね。
それから、この物語では、男と女が邂逅する縁を繋ぐものとして、章ごとに登場する男の友人たちと世界の都市、そして時代や政治情勢がかなり重要な意味を持っていて、そういった絶妙な構成もこの小説を心から楽しむことができた大きな要素でした。
最後に、表紙の装丁について。
イギリスの画家ウォーターハウスの2枚の絵(どちらもギリシア神話のキルケを題材にしたもの)を使っているのですが、読み終わってみるとこの装丁が、中身のストーリーだけでなく女の不可思議で危うい精神性を見事に象徴していることがわかり、感激しました。これは日本限定の表紙なのでしょうか。だとしたら、本文にはキルケのキの字もないのにこの絵を選んだ方の炯眼に感服するばかりです。
ニーニャ・マラ(悪い娘ちゃん)とニーニョ・ブエノ(良い子ちゃん)の歪で深い恋物語、またいつか読み返したいですね。
- 感想投稿日 : 2014年11月13日
- 読了日 : 2014年11月13日
- 本棚登録日 : 2014年11月13日
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