組織再編税制をあらためて読み解く―立法趣旨と保護法益からの検討

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制作 : 白井一馬  関根稔 
Tsumohaさん 組織再編税制   読み終わった 

組織再編税制について制度趣旨から解説された意欲作。関根弁護士と白井税理士による著作なだけに相当ディープな内容であった。組織再編において繰越欠損金の引継ぎが認められる「5年50%超支配関係」についても制度趣旨からその説明がなされており、理解が進んだ。組織再編税制に関する適用要件を単に暗記するだけでなく、立法趣旨・保護法益から学び直したいという職業専門家にはお勧めの書籍だ。
P40
なぜ50%なのか。この思想はどこからくるのか。 旧商法では子会社の基準を議決権の過半数としていた。おそらくこれに乗っかったのだろう。 ただ、そこに理論があるのか、組織再編税制の導入にあたって、財界と主税局のネゴから採用された当事者のこだわりなのかはわからない。

なぜ5年なのか
なぜ、5年前から継続して50%超の支配関係があれば、含み損や青色欠損金の承継が無条件で認められるのか。 理論的には何年前であろうと、支配関係が生じる前から存在した含み損や青色欠損金は損金算入を認められないはずだ。グループ内の懐で成立した含み損あるいは青色欠損金とは言えず、外部から購入した含み損だからだ。 しかし、組織再編税制は5年超の支配関係でよいとしている。
組織再編税制が創設された平成13年当時、青色欠損金の繰越期間が5年だったことがその理由だと考えている人たちが多いと思うがそれは違う。理由は会計法だ。国の債権は5年を経過すれば援用を要せず時効消滅し、国の債務も5年を超えれば援用を要せず時効消滅すると会計法は定めている(会計法30、31)。5年を超えた過去の債権債務関係を国は問うことができないのだ。そのため、その後の税制改正によって青色欠損金の繰越期間は7年、9年、10年と延長されたが、支配関係の継続が要求される期間は5年のままだ。
会計法
第30条 金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、5年間これを行わないときは、時効に因り消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
第31条 金銭の給付を目的とする国の権利の時効による消滅については、別段の規定がないときは、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
つまり、合併から5年を遡った時点で支配関係があればその時点における青色欠損金あるいは含み損が発生したのはいつか、支配関係が成立する前か後か、それを国は問えない。例えば、6年前に買収した子会社を吸収合併する場合に、仮に子会社の青色欠損金が生じたのが7年前であれば、本来は外部から持ち込まれた青色欠損金として、取込みは禁止されるはずだ。しかし取込みは制限されない。会計法による5年の消滅時効の制限から、5年より昔のことは税法上ブラックボックスであり、子会社の損失がいつ発生したのかを問うことができない。税法上は、親子関係は大昔から成立していたことになり、青色欠損金はすべて支配関係成立後に発生したことになる。
P51
要するに、支配要件の適格合併が行われた場合について、50%超の支配関係が5年に満たない支配関係が獲得された時点で、共同事業要件の各要件を満たしており、 かつ、合併時まで継続して維持された場合には、含み損と青色欠損金の利用を認める。
つまり、みなし共同事業要件には次の2つの趣旨がある。
①業界再編成 (共同事業要件の組織再編)を行うについて、 先に支配関係を構築した場合も、支配獲得時に共同事業要件を満たしていれば含み損の承継を認めるべきである。
②支配獲得後、対象会社の事業を入れ換えたり、事業規模を増減したりして、共同事業要件を満たした場合は含み損の承継を否定する必要がある。
しかし、中小企業の再編成では、そもそも、共同事業要件による適格組織再編成を実行することや、みなし共同事業要件によって含み損等を利用することは危険だ。
共同事業要件は、形式的に要件を満たせばそれでよいと考えるべきではない。
金融業界の再編成など、業界再編成が立法趣旨だという理解を前提にすべきだ。
事業関連性を満たすか否かは、解釈に幅のある抽象的な概念なので、中小企業が実行するには否認リスクが高い。
P54
そうは言っても、適格要件を満たさない限りは、時価承継になってしまうのだから実務では重要かもしれない。 いや、 むしろ、 形式要件だからこそー点でも要件に欠けたら取り返しのつかない課税関係になってしまう。
しかし、実務では、 青色欠損金の承継ができなくなることを除けば、 土地や有価証券を持っていない会社が適格を議論しても仕方ない。非適格合併の場合、株主に配当所得課税が生じてしまうが、それを避けるのなら事業譲渡で処理してしまえばよい。実務家はどうしても「適格」 という言葉に感わされてしまうのだが、非適格が怖いのは土地の含み益がある場合だけだ。グループ内での資産移転の大部分は、売買や事業譲渡で解決できる場合が多い。適格組総織再編成と言っても町の税理士にはほとんど必要のない知識と言ったら言いすぎだろう
か。組織再編成を実施するメリットは借地権の承継の問題くらいかもしれない。会社分割で借地権を移転してしまった場合は、地主の承諾は不要だろう。逆に地主の立場では、会社分割、合併などの組織再編行為については地主の承話を必要とする特約を付しておくべきだ。
いずれにしても、適格要件は恣意的に選択できる。再編直前に形式を整えることができる形式要件に過ぎない。合併直前に適用要件を満たすことに問題はないのか。逆に、人為的に非適格合併にすることで譲渡損を実現すると租税回避なのか。それだけではない。非適格合併であれば青色欠損金の使用制限が回避できる。5年50%超の支配関係がない子会社を吸収合併する場合に、親会社の青色欠損金が使用できなくなってしまうのを避けるため、あえて非適格合併にするのだ。非適格合併に青色欠損金の使用制限は存在しないからだ。子会社の青色欠損金の承継ができないという場合も、子会社を存続会社とする逆さ非適格合併にしてしまうと青色欠損金の全額が使えることになる。
このような合併が租税回避なのか、そうだとすれば何があるべき課税関係なのか。その答えが議論できないのが組織再編税制なのだ。大胆な節税に成功したら租税回避だと認定されてしまう。そのような議論に留まっている現状では、組織再編税制によって税負担が軽減することについて、実務家は否認リスクを警戒し委縮するしかない。形式要件の存在が手段の選択を許し、混乱の原因になっている。
再編時の適格要件に欠け、非適格合併や分割型分割になった場合の株主へのみなし配当課税にも疑問がある。資産が時価承継となってしまうことに加え、合併消滅会社の利益積立金は、合併存続会社に承継されず、資本金等の額に組み込まれる結果、株主に配当所得課税が行われる。しかし、なぜ、再編時の要件を整えない場合に配当所得課税を行わなければならなかったのか。形式要件に欠ける場合に薄価承継を否定し、時価承継を命じたのと同様に、ただ、決めたとしか説明できない。
P156
(6)青色欠損金の引継ぎ
完全支配関係のある子会社の解散で、 青色欠損金の承継が認められるのは、子会社株式の消滅損が認められなくなったため、その代替措置としての扱いだ。子会社株式の消却損のみならず、消滅する子会社の青色欠損金まで使えないのでは、行き過ぎた節税防止税法になってしまい、法人税法としての理屈がなくなってしまう。グループ法人税制においては、子会社は親会社の懐で育っている離とみなす。子会社の解散は、親会社の資本の部の変動なのだ。
残余財産は薄価承継になるため、組織再編税制の適用場面になり、5年50%超の支配関係が要求される。買収した子会社を5年内に解散すると、子会社株式消滅損の計上が禁止されるのに、青色欠損金の承継は認められないという厳しい取扱いになってしまうので注意が必要だ。親会社の青色欠損金も制限されることになる。
なお、解散する子会社の株式をグループ内で移動したら、青色欠損金を引き継ぐ会社は自由に選択できてしまう。個人株主の場合は青色欠損金が承継できないので、解散に先だって持株を法人株主に移動しておくことを検討すべきだろう。例えば、30%を親会社が、残りを社長個人が保有している子会社が解散する場合は、そのままだと親会社は青色欠損金のうち30%しか承継できない。
そこで、解散前に親会社に全株を譲渡したらよい。
この手法は租税回避になってしまうのだろうか。適格合併であれば、どの法人と合併するのも自由だ。青色欠損金の承継先は選択できる。解散だからといって租税回避とは言えないだろう。

レビュー投稿日
2019年11月10日
読了日
2019年11月10日
本棚登録日
2019年11月10日
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