『「豊かさ」とは何か』『「ゆとり」とは何か』(ともに講談社現代新書)の続編です。
世界でもまれにみる経済成長を遂げ、かつてない「豊かさ」を実現した日本は、いまやありあまるほどの「豊かさ」に溺れているのではないかと著者は問題を提起します。経済のソフト化・サーヴィス化は、意味のない贅沢を生み出しており、諸井薫の短編小説集『夕餉の支度の匂いがする』にえがかれたような、カタカナ職業に従事する「港区民」が増えていると論じられています。ただし著者は、そうした変化に対する違和感を表明しつつも、「豊かさ」のあとにくる「いかがわしさ」を毛嫌いするだけではいけないと述べています。ほんらい文化とは「いかがわしさ」を持ち合わせたものであり、新しい文化を生み出す可能性を秘めた「いかがわしさ」とうまく距離を取ることを学ぶべきだというのが、本書の結論になっています。
本書のサブタイトルは「幸せとは何か」となっていますが、「豊かさ」と「幸せ」とのあいだに存するへだたりがいったいなんであるのか、という問題の片鱗を読者に示した本だと理解しました。「あつかましくも「幸福論」などを書き、いったい幸せが何であるかを他人に教えるようなえらい人がけっして出現しないのが、現代という時代なのではあるまいか」と本書の冒頭で述べられていますが、まさにそのことが「豊かさ」と「幸せ」の隙間を埋めることのむずかしさの核心にあるように思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
政治・経済・社会
- 感想投稿日 : 2020年10月12日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2020年10月12日
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