AV女優の森下くるみの自伝です。
偏見や差別などに直面してきた苦悩や、両親との和解についてのエピソードなど、心に響くところもあったのですが、AV女優の自伝エッセイというフォーマットにあまりに嵌まってしまっているような気がしてしまいました。
同時代で彼女の作品を見ていたわけではないのではっきりとは分からないのですが、メディアの「森下くるみ」像を決定づけたのは、永沢光雄のインタビューだったと考えています。そして、彼女が監督のTOHJIROとタッグを組んで作品を生み出し、作品の中で涙を流した出来事が、永沢によって言葉へともたらされ、それが彼女自身を縛っているのではないかという気がします。
著者が女優として活躍していたころの視聴者たちは、AVの画面の向こうに、ほんのわずかな女優の「リアル」を見いだそうとしていたように思うのですが、私自身も含めて現在のAVの視聴者たちは、こうした女優のリアルな暴露話にはむしろ引いてしまうのではないでしょうか。とりわけ蒼井そら以降の「セクシー女優」たちは、その「キャラクター」が徹底管理されており、視聴者の方も「幻想」を「幻想」として享受するようになっています。いわゆる「ハメ撮り」に替わって「主観モノ」作品が増えた頃から、そうした傾向は顕著なように思います。
「解説」の花村萬月も、著者の文章から「リアル」な性と生を見ようとしていると言ってよいと思うのですが、そうした枠組みそのものが古びてしまっているのではないかという印象があります。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
メディア・サブカルチャー
- 感想投稿日 : 2016年12月25日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2016年12月25日
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