政治学者の姜尚中と、映画監督の森達也の2人が、20世紀の戦争の記憶をたどる対談です。
「森さんは場に感応する方ですから」という姜の言葉で、戦争の痕跡を残す場所を訪ねながら対談するという本書の企画が始まったとのこと。2人が訪れた場所は、ナチスのホロコーストに協力したポーランドの村・イエドヴァブネをはじめ、アウシュビッツ、デンクマール、市ヶ谷駐屯地、朝鮮半島の38度線、ソウルの戦争記念館、そして広島の平和記念公園など。
これらはいずれも、戦争という悲惨な過去をいまだ過去にすることができずにいる場所です。そうした場所に立ち、人類の歴史のトラウマにみずからの身体を置くことで、戦争の悲惨を観念的にもてあそぶような振舞いへの歯止めになるのではないでしょうか。
しかしながら同時に、それらの場所に立つことは、前へ歩み始めるスタート・ラインに立つということでもあるのではないかと思います。
そのように思ったのは、38度線の統一展望台で、目の前を流れるイムジン河を眺めながら2人が語った言葉を読んだときでした。姜が「河は浅そうですね」と語りかけ、それに対して森が「浅いですね。歩いて渡れると思いますよ」と応じます。それに続く姜の言葉は、次のようなものでした。「そこの坂道を駆け降りて、森さんと二人で大声を上げながら河を渡る気になればできますね。ここにいる観光客や兵士たちも後に続くかもしれない。統一など簡単です」。
終始重苦しさにつきまとわれている対談ですが、それと同時に、けっして希望がなくなってしまったわけではないということを強く感じました。
- 感想投稿日 : 2014年3月4日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2014年3月4日
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