長崎で通辞を務める上田与志(うえだ・よし)という男が、ポルトガル人の血を引くコルネリアという女性との愛をえがくとともに、朱印船貿易家と糸割符仲間との抗争が二人の運命を引き裂く顛末を語る歴史小説です。
しだいに鎖国体制が整備されていくことになる江戸時代初期の長崎を舞台に、さまざまな人びとの思惑が入り乱れるさまがえがかれています。主人公の上田はやや地味な人物像ではありますが、激変する時代の波に翻弄されながらもコルネリアへの純愛をつらぬき、物語を読むことのたのしみをあじわえる作品です。
著者のもうひとつの歴史小説である『安土往還記』では、キリスト教の布教のために海を越えて日本へやってきた南蛮人と、たぐいまれな合理的知性をもつ織田信長が、共通の「意志」(ヴォランタ)によって共感で結ばれるさまがえがかれていましたが、本作はそうした「意志」が日本からうしなわれていく時代をえがいたということができるかもしれません。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本の小説・エッセイ
- 感想投稿日 : 2021年8月3日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2021年8月3日
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