廃市・飛ぶ男 (新潮文庫 草 115-3)

著者 :
  • 新潮社 (1971年6月1日発売)
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短編八編を収録しています。

「未来都市」は、人間の非理性的な性格を消し去ることが可能になった都市にやってきた一人の芸術家を主人公とする、寓話的な作品です。時代背景を考えると、マルクス主義の芸術観に対する抵抗の意味が込められているのかもしれません。

「廃市」は、ひと夏のあいだ田舎の旧家ですごすことになった大学生の男が、その家に暮らす姉夫婦と妹とのあいだの愛憎劇を目撃することになる話です。

「退屈な少年」は、ひとりで心のなかに思いえがいた「賭け」に熱中する中学二年生の謙二を中心に、彼を取り巻く家族たちをえがいた作品です。端正な文体で、少年から青年になろうとする不安定な時代の心をえがいており、古い作品ながら現代にも通じるようなテーマに感じられました。

「影の部分」と「飛ぶ男」は、文体などの点で実験的な試みがなされている作品です。「未来都市」ほど寓話的な内容が明確に語られているわけではありませんが、個人的にはとりわけ「飛ぶ男」が強い印象をのこしています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説・エッセイ
感想投稿日 : 2021年8月29日
読了日 : -
本棚登録日 : 2021年8月29日

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