著者がさまざまな雑誌などに発表した、現代中国にかんする論考をまとめた本です。
本書に収められている論考は、「講義」と題された章と「演習」と題された章に分かれており、「講義」では中国の人びとの考えかたや行動原理について、著者の意見が語られています。「演習」に収められているのは、時評的な性格をもった文章で、文化大革命や江青ら四人組の失脚、天安門事件などについて論じられています。
著者は『中国人の論理学』(ちくま学芸文庫)などの著作で、日本人が「名」を優先するのに対して、中国人は「実」を優先するという文化論を展開していますが、本書でもそうした理解の枠組みが採用され、現代中国のさまざまな問題に対する独自の視点からの議論がなされています。
また、『儒教とは何か』(中公新書)や『沈黙の宗教―儒教』(ちくま学芸文庫)などの自著解説の章もあり、儒教において従来無視されてきた、死および死後についての説明をおこなうという意味での宗教としての側面に目を向け、そのことが中国および日本の死生観にどのような影響をもたらしたのか、あるいは中国と日本で死者に対するどのような考えかたのちがいがあるのか、といった問題が考察されています。
著者は「あとがき」で、「現代中国学」の必要性を訴えつつも、それが「古典中国学」とは異なり若く粗削りな分野であると断っています。ただ本書を読んだかぎりでは、中国文化論ないし日本文化論のようなエッセイに近い性格の文章も多く、著者のいう「現代中国学」にどのような学問的基礎づけがあるのだろうかという疑問も感じます。
- 感想投稿日 : 2022年8月28日
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- 本棚登録日 : 2022年8月28日
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