子どもが大人になるということは、単なる個人心理学的な自我の発達・完成ではないと著者は主張します。こうした考え方は、人間を他者から切り離された個人とみなす先入観から生じたものです。大人になるとは、個人としての自覚を深めていくことであり、社会人としての責任や義務がわかるようになることであり、さらには、親や友達、異性との情緒的ないしエロス的な関係を再構築するということを意味していると、著者は主張します。
かつてさまざまな社会のなかには、子どもが大人になるための通過儀礼が存在していました。しかし、近代社会はそうした明確な通過儀礼をそなえておらず、子どもが大人へと成長することは、個人の内面的な発達にゆだねられています。この事態を著者は、「隠された通過儀礼」と表現します。しかし、それが隠された内面的な過程だとしても、人間の重要な課題であることには変わりがありません。むしろ内面化され隠されていることで、そうした成熟を遂げることに困難を感じている現代の若者たちの問題が見えにくくなってしまっているのではないかと著者は指摘します。
本書ではこうした考えに基づいて、子どもから大人へと向かう内面的な成熟のプロセスが分析されていきます。著者は、宮崎駿の『となりのトトロ』や芥川龍之介の『トロッコ』、つげ義春の『紅の花』、大江健三郎の『不満足』などの作品を例に、幼年期から青年期にかけてひとが経験する内面的な成長のテーマを抽出しています。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
哲学・思想
- 感想投稿日 : 2017年7月6日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2017年7月6日
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