恋愛論 (ちくま学芸文庫)

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本棚登録 : 93
レビュー : 8
著者 :
キじばと。さん 哲学・思想   読み終わった 

相手のことを想って胸を焦がすような「恋愛」という体験の意味を、実存的な観点から解き明かそうとする試みです。

われわれは恋から醒めた時点から振り返って、プラトニックな愛にのぼせ上がって「現実」が見えていない状態だったと考えたり、あるいは恋愛の本質は単なる肉の欲望であり、それを「恋愛」を呼ぶ人は事実を覆い隠す美しい虚構に酔っているにすぎないと考えたりします。しかし恋愛のただなかにある者たちは、相反するはずのプラトニズムとエロティシズムをまったきひとつのものとして生きています。本書がめざすのは、こうした特権的な時間と、それが醒めた後の日常的な時間との間にある大きな齟齬のもつ意味を解明し、「恋愛」の実存的な本質を取り出すことです。

人間社会は、他者とのかかわりのなかで自己の「アイデンティティ」を勝ちとるゲームにほかなりません。社会のなかで「自由」を実現しようとする自己は、何らかの「自我理想」を掲げ、他者からそうしたアイデンティティを承認されることで、自己の「自由」を獲得することになります。ところが、かけがえのない欲望の対象である恋人の心を得るということは、「自分が自分である」という理由だけで愛される、純粋な可能性を意味していると著者はいいます。それは、自己が掲げるロマン的な理想が、いっきょに自分の生として現実化される可能性を与えるのです。また著者は、こうした愛し合う恋人どうしの間でのみ許される「美」を侵犯することにエロティシズムの本質があるという主張を展開します。

このほか、著者はコンスタンの『アドルフ』やスタンダールの『赤と黒』、さらにトルストイやドストエフスキーの文学作品を手がかりに、「美への希求」と「情欲」が一つになる恋愛が、実存にとってどのような意味をもつのかということを追求しています。とくにドストエフスキーの作品は、このような実存のありようそのものに対する問いかけが認められると著者はいい、その重要性を明らかにしています。

レビュー投稿日
2017年3月12日
読了日
-
本棚登録日
2015年4月9日
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