反フェミニズムの論陣を張っている著者が、現代において「男」として自己形成することの問題を論じた本です。
フェミニズムの論者は、「男らしさ」「女らしさ」といった規範は社会的につくられたものにすぎないと主張し、こうした窮屈な制度に縛られず「自分らしさ」を追及するべきだと述べることが多いと著者はいいます。これに対して、力ある存在としての「男」、優美な存在としての「女」という文化象徴的な差異には自然的根拠があると著者は主張します。とはいえ著者も、「男」と「女」の間に価値の優劣があると考えているわけではなく、ただ自然的な事実として差異が存在しており、もし男と女の間に単なる解剖学的な差異しかないのであれば、そのうえに「男らしさ」「女らしさ」という文化的・社会的差異が築かれるはずがないと論じられます。
つづいて、現に社会のなかで「男」と「女」の間の文化的差異が存在するという認識に立って、こうした社会のなかで「男」として自己を形成するときに直面する困難や、社会の中で「男」に期待される役割について考察しています。
むろんこうした著者の立場に批判的な読者もいることでしょうし、わたくし自身も必ずしも納得しているわけではないのですが、われわれが現に暮らしている社会の中で「男」が直面する問題を率直に見つめようとする著者の姿勢からは、立場の相違を超えて学ぶべき問題があるということまでは否定できないのではないかという気もしています。現に「男」たちが抱え込んでいる問題を単に切り捨てるのではなく、理想とは程遠いこの社会の中で現に自己形成をおこなってきたわれわれがこれからどのように生きていけばよいのか、という問いかけは、著者のような実存的な立場を守ろうとする論者でなくとも、なお考えていかなければならない問題ではないかと思います。
- 感想投稿日 : 2017年6月30日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2017年6月30日
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