あの日、僕は旅に出た

著者 :
  • 幻冬舎 (2013年7月12日発売)
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本棚登録 : 198
感想 : 22
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あの日、僕は旅に出た

この書名をじっと見る。そしてその言葉から広がる奥行き。
「旅行人」の読者であった自分には、思い入れがありすぎて胸があつくなるような内容が詰まった本でした。
自身の旅の話、日本での仕事の話、偶然の出会いから動き出す事柄、などなど興味深いこと目白押しです。
出版社設立の経緯などドラマのよう…。
読み終えて、感慨深いなどというありきたりの言葉では表せない気持ちでいっぱいです。

他にはない旅の雑誌「旅行人」をつくってきた蔵前さん。
はじめは「遊星通信」というミニコミ紙でした。創刊にあたり二つの雑誌をモデルにしたそうです。
そのひとつが「本の雑誌」。
多くのミニコミモデルで憧れであった本の雑誌の、本が好きで好きでしょうがないという姿勢に惹かれたという蔵前さん。

>本が好きでさえあれば誰でも好き勝手にモノがいえるという雰囲気に満ちていた。執筆者も読者も、いろんなことをリラックスしてかたりあっているというそのスタイルが僕は好きだった。タテマエではなく本音で、金ではなく企画で勝負するという姿勢も素晴らしかった。

たくさんの蔵前さんの旅は面白いです。
エピソードはもちろんのこと、旅をして考え学び取る力があったのだと、その聡明さに感心します。

>初めてインドへ行ったところから始まった僕のおよそ三〇年を、そろそろ終わりにしようと思う。僕は、わが人生の来し方を振り返って、なにかえらそうな格言のようなものを書ける人間ではない。ただ、たまたま僕はこういう三〇年を過ごしてきただけである。

>どういうスタイルで旅をするにしても、日本ではあまり紹介されてはいないが、こういう国や地域には、こんな風景もある、あんな生活もある、こういう人々が住んでいるので実におもしろいぞ!と紹介する雑誌をつくりたかった。

そして、「旅行人」休刊へ。
この30年あまりを振り返り、世界の大きな変化に思いをめぐらせ、自分の人生を振り返られての心境が素直に綴られているのにじーんとしました。

>自分もまた変わる。旅に出る前の自分と、旅のあとの自分は同じではない。そして、世界も常に変わり続けている。自分が旅立つ前の日本と、旅から帰ってきたときの日本は、すでに異なっている。だから、旅人は二度と同じ場所へ帰ることはできない。それはまるで長い宇宙旅行から帰ってきた宇宙飛行士と同じであり、浦島太郎のようなものだ。それが旅の不思議な作用だと思う。

日本での出版社での仕事、貴重な取材と制作の苦労により形になった、価値のあるガイドブック。
おもしろいものを世に出したいと忙しく働いた成果に、尊敬の念さえ抱きます。
インドへ旅立ってからの30年が綴られているのを読みながら、自分自身の30年にも思いは及んでいく。
通り過ぎてきた場所や、若かりし頃の自分を思う。
旅先の時空と相まって、大きな流れに身を任せていることを意識できた奥行きのある本です。
今の蔵前さんの心境が、さっぱりしていて身軽にかんじます。
自分もなんとなくですが、こうやって日々生きているなぁとあらたまった気持ちになり、清々しくなりました。
大河の流れを進み行くような蔵前さんと同じ時代を生きているのがうれしいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年8月17日
読了日 : 2013年8月17日
本棚登録日 : 2013年8月17日

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