分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか 精神と物質 (文春文庫 た 5-3)

  • 文藝春秋 (1993年10月9日発売)
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感想 : 80
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この本は、利根川先生が1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した後で、ジャーナリストの立花氏が利根川先生に受賞対象である「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明の研究」についての詳しいインタビューを行い、その内容をまとめたものだ。

なので、書いてあるのは利根川先生の学歴や研究経歴、 受賞対象研究を選択するまでの経緯と、対象研究についての一般向けのわかりやすく、かつ十分に詳しい説明である。内容的にはそれだけなんだけど、生命現象に興味を持つ人ならきっと誰でも楽しめるであろう読み物となっている。

私も生命現象に興味を持つ一人として、今まで色々と生物学関連の本は読んできたし放大で学んだりしてきたつもりで、 遺伝子のしくみなんかもそれなりに知ってるつもりでいたけど、正直言ってこの本のメインテーマである「抗原−抗体システム」について、ほとんど何の知識も持っていなかったことに、本書を読んで気づかされた。

私自身はDNA関連の基礎知識等はあるので読むのに難しい部分は少なかったが、まるで知識のない人でも読むことができるよう、立花氏が各用語についていちいち解説文や図解を入れているので、特に読むのに困ることはないと思う。
利根川先生の研究自体がDNA研究の全体的な発展の歴史に沿うような流れで進んできたという事も、この本を読むと理解できる。

DNAの解析技術についても、教科書では「クローニング」や「組込み」等の簡単に書いてあることが、実際は色々な人達の研究の積み上げがあってできるようになったんだなと、その部分には感動した。今では専用の機械にポイっと放りこんで、PCで画像処理して見る感じだろうか?
初版が1993年で20年以上も前になるので、現代の知識だとここはこうだよな、と思う部分も出てくる。でもそれは内容のレベルには影響しないと思う。

本書で説明されるのは「免疫の抗体反応が遺伝子レベルでどのようになっているのか」という研究。簡単にいえばそれだけで、本のタイトルにあるような精神と物質についての深遠な哲学的な話はないし、精神と物質の関係を科学的に解明するような話もない。そもそも遺伝子解析や分子生物学が初刊当時よりさらに発展した現代ですら、そんな解明なんてまだまだ遠い先の話、だと思う。

それでも、このようなノーベル賞級の重要な研究や周辺の様々な研究、技術開発、人々の知見などが積み重なっていくことによって科学の1分野が発展していくさまを、その最前線でけん引した利根川先生のインタビューで追体験したような気分になれるのは、とてもワクワクできて楽しい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 生物:分子生物学
感想投稿日 : 2019年3月21日
読了日 : 2015年11月2日
本棚登録日 : 2015年11月2日

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