「いじめ」という現象は、社会集団における力関係のアンバランスとその乱用から生じる、というのが本書の立場です。
社会学者である著者は、「力関係のアンバランスは、(中略)人間関係があり、集団や組織の関係があれば、避けることができ」(p.73)ず、むしろそのような「力関係のアンバランスがあるからこそ、私たちは関係を結び、集団や組織を作って運営できる」(同上)と示し、私たちの暮らす社会において非対称的な力関係が偏在すること自体は、異常なことでも問題のある事態でもないと述べます。
しかしながら、このような人間社会の実態があるからといって、「『いじめ』という現象が生じるのは然るべきだ」と主張しているのでは、決してありません。著者が問題としているのは、そのような構造的に生成された非対称的な力関係を乱用することによって「他者への攻撃やハラスメント、虐待へと転化」(p.72)してしまうことであり、この一連の流れによって「いじめ」という現象が生じると分析しています。
本書は、私たち人間が避けて通ることのできない「社会の病理」としての「いじめ」が生じる構造を、社会学的な視点から分析し、わかりやすく記述した「いじめ学」の金字塔。そして、時として人の命をも奪う「いじめ」に歯止めをかける社会、すなわち「いじめを止められる社会」への可能性を模索すべく、日本の社会が、教育が、進むべき道を示すことを試みた良書であります。「いじめ」という「社会の問題」について考えてみたい方、是非本書を手に取ってみてください。
(ラーニング・アドバイザー/教育 SAKAI)
▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1479355
- 感想投稿日 : 2014年6月13日
- 読了日 : 2014年6月1日
- 本棚登録日 : 2014年6月13日
みんなの感想をみる