編集ども集まれ!

著者 :
  • 双葉社 (2017年9月20日発売)
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本棚登録 : 175
感想 : 22
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この作者の作品は初めて。タイトルと装丁のポップなイラストから、編集者を主人公にした軽めのお仕事小説だと思ていたんだけど、読ませる1冊だった。(お仕事小説は好きだし、本に関する仕事にも興味があるので、そういうのがあったら絶対読むけど)
2つの時代が行ったり来たりする構成。一つはバブル初期からその終わりまで、主人公が神保町の出版社で漫画編集者として仕事をしていた様子を回想する。その関係で知り合った漫画家などサブカルチャーの錚々たる名前が次々に登場して壮観。もう一つの時代は現在。小説家となった主人公が、自分の半生をモデルにした小説を書くことになり、主題のためにずっと避けていた神保町や漫画家ゆかりの場所を再訪する。まあ、これだけだったら「有名な漫画家たちと直接仕事ができたなんてすごいなあ」という感想で終わっていただろう。
しかし、この小説にはバブル期から現在へ、編集者から小説家へ、という流れとは別に、男性から女性へ、という流れがある。つまり、主人公はトランスジェンダーなのだ。生まれたときの性は男性だけど、自分の性別に違和感を持ち、編集者として仕事をする中で自分の好みのファッション(スカートとかネイルとか)を身につけるようになる。それを理由に解雇され、そのために神保町を避けていたのだが、時を経て、自分をモデルにした小説を書くまでに至るのだ。
現在だったら解雇なんて許されないが、当時は周囲の理解が不十分だった。そんな状況下で自分を曲げずにいつづけた主人公=作者。重くしようと思えばいくらでも重く書ける題材だけど、あえてカラリと淡々と軽めに、しかし読み応えのある長編小説に仕上げている。この作家の他の本も読んでみたい。
そしてこの本を読んでいる途中、作中に何度も登場した神保町のコミック高岡が3月末で閉店するというニュースが入った。老舗の書店がまた一つ消えてしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年3月4日
読了日 : 2019年2月20日
本棚登録日 : 2017年9月27日

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