生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた毛布が
2泊3日でレンタルされるブランケット・キャッツにどうしても必要なように
精神的には猫たちよりたぶんずっと弱い私たち人間にも
どうしても手放せない記憶や、望みや、帰りつきたい居場所がある。
かなり前から気になっていた本なのに
ビデオやDVDのように料金を払って気軽に貸し出される猫、という設定に
割り切れないものを感じて、なかなか手が出せなかったのだけれど
たった3日間であっても猫と過ごしたい、と借りていく人たちのほとんどが
自分の身勝手さをちゃんとわきまえながら、ブランケット・キャッツに縋ってでも
埋めてほしい淋しさや不安を抱えている人々として描かれていることにほっとした。
貸し出される猫たちも、ただただお行儀がよくて愛想のいい可愛らしい猫ではなくて
急に野性的になってネズミを掴まえてきたり、不当な扱いには爪を出して反撃したり
ベテラン猫ともなると、人間を冷静に観察し、相手の気分に応じたサービスを心がけたり、
と、猫としての矜持をしっかり保って生きていて
特に、7篇のうちの1篇『旅に出たブランケット・キャット』が
アメリカン・ショートヘアのタビーの目線で
旅人に寄り添い、彼らを守るワーキング・キャットとしての使命に目覚める物語として
描かれているあたりに重松さんの猫への敬意が感じられ、救われる。
表紙の真ん中にすっくと立って、静かにこちらを見つめる猫が印象的な
高野文子さんの装画が物語っているように
ほのぼのと猫たちに癒されるお話ではなくて、
ブランケット・キャッツの曇りのない瞳に映された自分を顧みて
レンタルした人々がほんとうに必要なものに気付かされる、7つの物語。
- 感想投稿日 : 2012年10月10日
- 読了日 : 2012年10月9日
- 本棚登録日 : 2012年10月9日
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