私を知らないで (集英社文庫)

  • 集英社 (2012年10月19日発売)
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本棚登録 : 2575
感想 : 339
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最後の頁を閉じた時、
「ああ!できることならこの本には中学生の頃に出会って
未成年の熱ともどかしさを噛みしめながら読みたかったなぁ!
そしたら大人になって読み返したときの感動もひとしおだったのに!」
なんて、ないものねだりの妄想をふくらませてしまいました。
・・・というわけで、もちろん大人になってから読んでも素晴らしいけれど
夏休み真っ只中のティーンエイジャーのブクログ仲間さんたちに
「十代でこの本を読める幸運を逃さないで!」と、ぜひおすすめしたい一冊です。

たぶん、いちばんわかりあえる相手、
誰よりも自分を知ってほしいひとに
「私を知らないで」とつぶやくしかない、キヨコのせつなさ。
「普通に生きられる場所」へと彼女を引っ張り上げるべく、手を差し伸べたくても
法律や世間の常識に阻まれ、歯噛みするしかない、未成年のシンペーと高野。
このせつなさ、もどかしさを、リアルタイムで共感して読めるなんて
なんとまあ、うらやましいこと。

中学生にして既に転校のエキスパートを自認し、万事そつがないシンペー。
シンペーが緻密な計算を組み立てた上でクラスに溶け込む「浸透型転校生」だとしたら
後から転入してくる高野は、計算の「け」の字も脳内に存在しないような
あっけらかんとした「飛び込み型転校生」。
彼らが、「貧乏で変わり者だ」と、クラスの異物として遠巻きにされているキヨコの
休日の行動を追跡するところから、物語は鮮やかに展開し始めます。

いつ来るかわからない終わりを見据えながらも
貧乏暮らしの中、創意工夫を重ねて貯めたお金で
末永く使える質の良いバッグや高価な箒を買い
一生ものの「ミーレの掃除機」に憧れる。。。
「普通に生きる」という、キヨコのたったひとつの望みを叶えるために
冷静さも緻密さもかなぐり捨てて、みっともなく走り回る男の子たちが
どうしようもなく愛おしい。

そして、クラスに馴染むため、ボスのミータンの取り巻きの中から
好きでもないのに彼女として選んだアヤの労作が、めぐりめぐって
キヨコを救うにあたり、シンペーには如何ともしがたかった親の心を動かすくだりや
恋愛すら戦術としてスマートに利用していたつもりのシンペーが
遅まきながら初めてほんとうの恋を知ったときの恋の神様からのしっぺ返しは
大人になったからこそ、ほろ苦く、しみじみと胸に沁みてきて。

ティーンエイジャーのうちにぜひ、と書き始めたけれど
大人になりかけの人にも、大人になって久しい方にも
ぜひ読んでいただきたい名作です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行の作家
感想投稿日 : 2013年8月11日
読了日 : -
本棚登録日 : 2013年7月11日

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コメント 4件

kwosaさんのコメント
2013/08/12

まろんさん!

残暑お見舞い申し上げます。
暦の上ではとうに立秋を過ぎましたが、日々猛暑が続いています。
いかがお過ごしですか。
体調を崩されたりはしていませんか。

『私を知らないで』
ついにお読みになりましたね。
まろんさんの本棚に登録されてから、レビューを今か今かと待ち望んでおりました(お忙しいのにすみません)。

ああ! ひまわり咲き乱れる中学生の夏休みに、これ読んでいたらどんな気持ちになったでしょうね。
ぽーっ、としばらく放心して立ち直るのに時間がかかったかもしれません。

「恋の神様からのしっぺ返し」という表現は言い得て妙ですね。さすが、まろんさん。
これは大人になったからこそのほろ苦さですね。
なんだか読後のあの感じが蘇ってきました。
やっぱり、ぽーっとしばらく放心していたような気がします。

まろんさんのコメント
2013/08/12

kwosaさん!

さあ、寝ようっと!と思って二階の寝室に上がると、真夜中なのに室温36℃!
という残暑に、絶賛夏バテ中の私です。
それでも本はちょこちょこ読んでいたのですが、それでなくても動きが緩慢なアタマが
すっかり考えることを放棄してしまって、レビューが書けない日々が続いてしまいました。
kwosaさんはじめ、心やさしいブクログ仲間さんたちが心配してくださったことがとてもうれしくて。
ありがとうございます。

『私を知らないで』、kwosaさんのレビューを読ませていただいて以来、ずっと読みたかったのです。
やっと読めたと思ったら、もう、好きになりすぎて思うようにレビューが書けなくて。

kwosaさんも書かれていたように、
キヨコの身辺に纏わる謎はかなり早い段階で推察できてしまうのだけれど
キヨコ、シンペー、高野の3人のキャラクター造形や、印象的な小道具の使い方、
ちいさなエピソードの積み重ね方のすばらしいこと!
なにより私は、この物語のシンペーとか、米澤穂信さんの古典部シリーズの奉太郎みたいに
理屈っぽくて傍観者然としてる男の子がぽきんと折れる瞬間が
たまらなく好きなのです。
ミーレの掃除機を前に、シンペーとキヨコが交わす会話には、せつなくて涙がこぼれました。
白河三兎さん、すばらしい作家さんですね!
紹介していただいて、ほんとうにありがとうございました(*'-')フフ♪

kwosaさんのコメント
2013/08/13

まろんさん!

本棚へコメントをありがとうございます。
お元気そうでなによりです。

>理屈っぽくて傍観者然としてる男の子がぽきんと折れる瞬間が
たまらなく好きなのです。

おおっ! ちょっぴりサディスティックな告白をありがとうございます(笑)
でも、その気持ちわかります。
えてして文科系男子(女子にも?)には、理詰めでものを考え、それでどうにか自分のアイデンティティを守って立っているという時期があるものです。
でも、ぽきんと折れてからが勝負なんですよね。
そこから骨が太くなる。人間の本領が出る。
シリーズ物の小説ではその後の成長が楽しみなところでもあります。

>ミーレの掃除機を前に、シンペーとキヨコが交わす会話には、せつなくて涙がこぼれました。

せつなかったですね。
キヨコの棕櫚の箒が魔法使いの道具だったのなら、あのミーレの掃除機は、けっして変えることのできない現実に一瞬だけ夢を見せるタイムマシンだったのかもしれませんね。

まろんさんのコメント
2013/08/13

kwosaさん!

そうそう!そうなのです!
ぽきん。。。のあと、自分に足りなかったものを、素直に認められるか。
認めたうえで、カッコ悪くてもはいずり回っても、頑張り抜けるか。
頭でっかちだった少年が変わっていく瞬間を、つぶさに見られるこの幸せ♪

魔法使いの箒に、タイムマシンの掃除機。
この小道具たちが纏うせつなさを共有してくださるkwosaさんがいらっしゃることで
さらに感動が深まります。

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