ツナグ

著者 :
  • 新潮社 (2010年10月29日発売)
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本棚登録 : 4308
感想 : 736
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私なら、誰に会わせてと依頼するだろう?と思いながら読み始めたのだけれど
この世を去った後に、もし会いたいとお呼びがかかったら
呼んでくれた誰かの心の重荷を少しでも軽くして
やわらかい気持ちでそれからの日々を過ごせるような言葉をかけてあげられる
そんな存在でありたい、と思いながら頁を閉じた。

生きて残された人と死者との、ただ一度の再会の仲立ちをする使者(ツナグ)。
「死者」と読みが同じ「使者」をツナグと読ませるところが、辻村さんらしい。

お試し期間の初仕事では、祖母特製のノートを棒読みするかのような
ぎこちなさと戸惑いを見せ、心情的には完全に生者寄りだった歩美が
経験を積むにつれ、生者と死者両方の気持ちに寄り添って
「ツナグ」らしく、生と死のあわいから人の世を静かに見つめ始めるのが、とてもいい。

映画ではカットされた『アイドルの心得』の、過呼吸で苦しむ見ず知らずの酔っ払いを
荷物を放り出して躊躇なく助けたことなど、当たり前のこととしてすっぱり忘れる一方で
気に掛かるファンレターの内容はしっかり覚えていて、一ファンのために
たった一度の「ツナグ」の機会を使ってしまう水城サヲリに惚れ惚れし

演劇部の主役を巡っての諍いで、親友の心に芽生えた嫉妬と出来心は許せても
自分の言葉を騙って、好きだった少年と会話することは許せないという
思春期の少女独特の論理と復讐を冷え冷えと描く筆づかいに戦慄し

死者が抱えた物語は、生きて残された者のためであって欲しいと
息子夫婦の死への後悔に震える祖母を、信頼に満ちた言葉で温める歩美に安堵して

この世に残る、かつて「私だった」欠片や記憶が
少しでもやさしく温かいものになるよう生きなくては、と思う1冊だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: た行の作家
感想投稿日 : 2012年10月28日
読了日 : 2012年10月28日
本棚登録日 : 2012年10月28日

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コメント 6件

nobo0803さんのコメント
2012/10/28

まろんさんのもとにも「ツナグ」が届いたんですね!!
まろんさんのレビューにあるように、本当にこの世に残るものがやさしく温かいものになるように生きなくては、と思います。
映画もすごく気になっているのですが…まろんさんはもう見ましたか??

まろんさんのコメント
2012/10/29

そうなのです!やっと届きましたよ~゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。

そして、映画のほうも、娘と並んで泣きながら観てきました!
キャストがみんな原作のイメージにぴったりで
『使者の心得』のエピソードを、とても自然に他のエピソードに散りばめて構成されていて
原作に敬意を払った、とても丁寧な作品に仕上がっていました♪

嵐役の橋本愛ちゃんの号泣場面が、息をのむくらいすばらしかったし、
映画オリジナルの、おばあちゃんが口ずさむ「最上のわざ」という詩にも感動しました。
noboさんも、お時間があったらぜひ!

nobo0803さんのコメント
2012/10/30

まろんさん、映画見られたのですね!!
案外映画化されるとキャストが原作のイメージと違うことが多いですが、ぴったりなんですね!
それに、おばあちゃんって樹木希林さんですもんね。そのおばあちゃんが口ずさむ詩って奥が深くって素敵なんだろうな~。
これは、やはり映画館でみないといけないですね。

まろんさんのコメント
2012/10/31

樹木希林さん、CGや特殊効果なんてなくても
死者の魂とコンタクトできてしまいそうにイメージぴったりで
雰囲気のある演技でした!
口ずさんでいた詩があまりに素敵だったので、内容をはっきり知りたくて
迷わずパンフレットを買ってしまいましたよ~♪

macamiさんのコメント
2013/02/03

>「死者」と読みが同じ「使者」をツナグと読ませるところが、辻村さんらしい。

私も全く同じことを思いました!こういうのすごくうれしいです^^

まろんさん、映画もご覧になられたのですね!
まろんさんの感想を聞き、いまさら気になってきました。(笑)

まろんさんのコメント
2013/02/03

おお、macamiさんも「使者」=ツナグの部分に辻村さんらしさを感じたのですね。
同じ本を好きなだけでもうれしいのに、ディテールでさらに同じ思いを共有できるなんて
私こそ、とてもうれしいです♪

映画は、『アイドルの心得』のエピソードがないのだけが残念でしたが
キャストはとても雰囲気に合っていたし、
映画でだけ挿入された詩も素晴らしかったので、機会があったら、ぜひ♪

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