私なら、誰に会わせてと依頼するだろう?と思いながら読み始めたのだけれど
この世を去った後に、もし会いたいとお呼びがかかったら
呼んでくれた誰かの心の重荷を少しでも軽くして
やわらかい気持ちでそれからの日々を過ごせるような言葉をかけてあげられる
そんな存在でありたい、と思いながら頁を閉じた。
生きて残された人と死者との、ただ一度の再会の仲立ちをする使者(ツナグ)。
「死者」と読みが同じ「使者」をツナグと読ませるところが、辻村さんらしい。
お試し期間の初仕事では、祖母特製のノートを棒読みするかのような
ぎこちなさと戸惑いを見せ、心情的には完全に生者寄りだった歩美が
経験を積むにつれ、生者と死者両方の気持ちに寄り添って
「ツナグ」らしく、生と死のあわいから人の世を静かに見つめ始めるのが、とてもいい。
映画ではカットされた『アイドルの心得』の、過呼吸で苦しむ見ず知らずの酔っ払いを
荷物を放り出して躊躇なく助けたことなど、当たり前のこととしてすっぱり忘れる一方で
気に掛かるファンレターの内容はしっかり覚えていて、一ファンのために
たった一度の「ツナグ」の機会を使ってしまう水城サヲリに惚れ惚れし
演劇部の主役を巡っての諍いで、親友の心に芽生えた嫉妬と出来心は許せても
自分の言葉を騙って、好きだった少年と会話することは許せないという
思春期の少女独特の論理と復讐を冷え冷えと描く筆づかいに戦慄し
死者が抱えた物語は、生きて残された者のためであって欲しいと
息子夫婦の死への後悔に震える祖母を、信頼に満ちた言葉で温める歩美に安堵して
この世に残る、かつて「私だった」欠片や記憶が
少しでもやさしく温かいものになるよう生きなくては、と思う1冊だった。
- 感想投稿日 : 2012年10月28日
- 読了日 : 2012年10月28日
- 本棚登録日 : 2012年10月28日
みんなの感想をみる